『SFが読みたい!2017年版』

SFが読みたい! 2017年版

SFが読みたい! 2017年版

SFマガジン編集部による、2015/11-2016/10の新作SFのブックガイド。

今回気になった(というかポチった)のは以下の3冊。

スペース金融道

スペース金融道

ビビビ・ビ・バップ

ビビビ・ビ・バップ

死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)

死の鳥 (ハヤカワ文庫SF)

どれもハードSFではない。センチメンタルな感じ。

また、パッと見た感じではあまり難解な感じもしなかった。わたしは基本的に(学生時代のごく一時期を除いて)あまり難解なものは好まない。グレッグ・イーガンは「別の物理法則」とやらに支配された宇宙を創り出すなど、ゴリゴリのハードなのだが、そこまで行かれると「作者と読者の勝負」って感じがして、もっと気楽に本を読みたいわたしとしては食指が伸びない。もう少し暇になったらそういう本も読んでみたいとは思うけれどね。

高野秀行『アヘン王国潜入記』

【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

【カラー版】アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

ミャンマー(ビルマ)のワ州というところで実際に生活して、どんな人たちがどんな風にアヘンを作っているのかを探ったルポルタージュ。この人の名前は以前から知っていたが、こんなに面白い本だったとは。アヘンがどんな風に作られているか、(地理上はビルマの中にありながら)ビルマ人のこともビルマの文字もビルマの紙幣も知らず独立国を標榜したワ州がどんなところだったか、そしてアヘンを吸うとどんな気分になるのか……本書を読むと、文化人類学的な知的好奇心がムクムクと頭をもたげてくる。

面白い!

今更ながら、この人の作品を色々と読んでみようかなという気になった。

なお、わたしのドラッグに関する知識は、アッパー系という気分を高揚させるものの代表格がコカイン、ダウナー系という気分をふにゃーっとさせるものが大麻(マリファナ)とヘロイン、あとアヘンはケシの実から作られ、大麻は文字通り麻ですね、という程度の知識しかなかった。しかし本書では、アヘンを生成することでヘロインが作られ、そこからさらにモルヒネが作られることなども説明されている。

ちなみにヘロインはドラッグの中でもトップクラスに危険なブツだとされているが、あっさりとアヘンにハマってジャンキー化していく著者の様子を読んで、ヘロインの原料たるアヘンもなかなかに危険なんだなーと認識を新たにした。アヘンは昔からある、いわば未精製のドラッグだということで、もちろん危険には違いないが、相対的にはそこまで危険なドラッグではないんじゃないかと思っていた自分がいた。しかし相対論なんて正直ほとんど意味がない。やれば、遅かれ早かれジャンキーになる。それがドラッグなのだろう。つまり依存性や毒性ということであれば、タバコやアルコールもそこそこ酷いドラッグというわけだ。筋トレでもして脳内麻薬を出しているぐらいが良いんだろうな。

中原淳『駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する』

駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する (中公新書ラクレ)

駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する (中公新書ラクレ)

突然化・二重化・多様化・煩雑化・若年化という5つの外部環境の激変のため、プレイヤーからマネージャーへの移行は昔よりはるかに難しくなっており、駆け出しマネージャーの3割は、その移行に「つまづく」そうだ。自身の研究成果を踏まえて、つまづきを乗り越える方法をアドバイスする、という意図の本である。

具体的に新任マネージャーが取り組むべき挑戦課題は7つ。

  1. 部下育成
  2. 目標咀嚼
  3. 政治交渉
  4. 多様な人材活用
  5. 意思決定
  6. マインド維持
  7. プレマネバランス

部下育成・政治交渉・プレマネバランスあたりは、わたしも日々迷っているというか、試行錯誤しているところがある。例えばプレマネバランス、これはプレーヤーとマネージャーのバランスということを指す。今時の会社は「マネージャー」と言っても大半がプレイングマネージャーである。しかもわたしはコンサルタントだ。コンサルタントというのは、たとえマネージャーになっても「プロジェクトマネージャー」や「現場マネージャー」は単なる管理職を意味しない。よりハイレベルな問題解決や課題推進を求められるという意味で、どこまでもプレイングマネージャーと言って良い。しかしマネージャーになると社内の仕事が増える。しかも猛烈に。そのバランスというのは結構大変なのである。

なお著者である中原淳も30代後半となり大学で管理職的なことをやらされており云々……という記述が頻発するが、こういう学者と企業人では「マネージャー」といってもその性質が全く違うような気がして、特に著者との連帯意識のようなものは感じない。あと、著者のこれまでのコンセプトと重複するところがあり(内省の話とか)、内容への新鮮さもあまり感じない。それを除けば、かなり良い本だと思う。

中原淳『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』

HRコンサルタントの頃によく参照していた中原淳の著作。

本作のテーマは「フィードバック」である。ティーチングともコーチングとも違う、フィードバックという概念を真正面から取り上げているのは面白い。
しかし学術的な裏付けのあることしか書かないという学者の性分なのか、面白いかと問われると、「なるほど」という程度の驚きしかないなあ。もう少し何度も読み込んでみると、また違った感想を抱くかも。

野口悠紀雄『1940年体制(増補版) さらば戦時経済』

1940年体制(増補版)

1940年体制(増補版)

日本という国は、社会・経済においては、第二次世界大戦後一旦解体され、戦後新たに構築されたという見方が大半である。あるいは日本人の勤勉な国民性は戦前から脈々と受け継いだものであり、そんな日本人だから戦後モーレツな勢いで復興し、欧米の先進国に早くから肩を並べることができたという見方もある。

しかし著者の主張はそのいずれとも異なる。

著者が本書で述べたかったのは「現在の日本経済を構成する主要な要素は、戦時期に作られた」という仮説である。

終身雇用制・年功序列賃金・企業別労働組合の三種の神器に代表される日本型企業、護送船団方式による手厚い銀行保護に代表される間接金融中心の金融システム、直接税中心の税体系、中央集権的な財政制度や官僚制度、株主軽視(従業員重視)、下請制度の普及、土地制度、高い貯蓄率など、日本経済の特質と捉えられているものは本来日本には存在しなかったものだが、資源を軍需目的に集中させる必要性から、1938年の国家総動員法の施行などにより1940年前後の数年間で人為的に導入されたものである。そして農地改革や財閥解体といった戦後改革の一方で、行われなかった戦後改革もあり、これらの人為的な仕組み(戦時経済)は第二次世界大戦後も継続している。加えて、これら1940年体制(戦時体制)の基本的な理念として、生産者優先主義と競争否定、すなわち消費者軽視と強い規制がある。これら理念は現在に至るまで日本において大きな影響力を持っている……本書の言葉をわたしなりに変換・補足しながら説明すると、こんな感じのアウトラインであろうか。

細かい検証にはあまり興味がないので途中は読み飛ばしたが、上記の指摘は非常に面白かった。

確かに日本には、戦時経済が未だに残っているように見える。

この著者は「超」整理法でしか知らなかったが、こちらの本業の成果も非常に素晴らしい。

六波羅穣『一流の記憶法 あなたの頭が劇的に良くなり「天才への扉」がひらく』

一流の記憶法: あなたの頭が劇的に良くなり「天才への扉」がひらく

一流の記憶法: あなたの頭が劇的に良くなり「天才への扉」がひらく

Amazonで紹介され、人気もあるようなので何となく買ってみたが……良かった。

円周率を何万桁も覚えたり、ごく僅かな時間で難易度の高い試験に合格したりする人がたまにいるが、彼らは別に人並み外れて記憶力が良いわけではないらしい。しかし「覚え方」はわかっている。その「覚え方」をきちんと理解したら、誰でも記憶力が桁違いに良くなるそうである。例題を(全部ではないが一部)やってみたが、確かに覚えやすくなっている。

それに、いわゆる「記憶術」ではなく、記憶そのものの原理も実に丁寧に教えてくれている。著者も書いているように、記憶術ではなく、この想起の訓練を繰り返すだけで大半の仕事や資格勉強は行けるんじゃないだろうかという期待もある。

良書。

中室牧子+津川友介『「原因と結果」の経済学』

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

著者のひとりである中室牧子が書いた『「学力」の経済学』が面白かったので本書も買ってみたのだが、面白かった。
incubator.hatenablog.com

「因果推論」というキーワードが、本書のテーマである。因果推論でググってみたものの、端的な説明をしているページがほとんど見つからなかったため、本書を読んだわたしなりの理解ということで、本書の言葉だけでなくわたしの言葉も使いながら説明する。

要は、相関関係と因果関係は違うよということである。

「Aである結果、Bである」これは因果関係である。

雨が強く振っているほど、道ゆく人が傘を差す割合は増える。この「雨が降っている」という現象と「傘を差す」という行為、これは(言うまでもなく)明白な因果関係であろう。雨が原因で、傘を差すという結果がもたらされている。この原因と結果の関係が「因果関係」である。

一方、「Aであるほど、Bである」これは相関関係である。

Aが増えたという事実とBが増えたという事実に統計的な相関関係があるものでも、直接的にAが増えた結果としてBが増えたのかどうかわからないことはよくあるものだ。しかし論理的に説明されると、あるいは大袈裟に説明されると、我々は因果関係があるように誤解してしまうことがある。そしてその誤解を、議論のプロや詐欺師たちは自覚的に(あるいは無自覚に)利用しているのである。マスコミや政治家の扇情的・扇動的な物言いを思い出していただきたい。

AとBに何らかの因果関係があるように見える時、そこに原因と結果という明白な因果関係があるのか、単なる相関関係(あるいは無関係)であるかどうかを適切に判断するための方法論、それが「因果推論」である。本書によれば、ある種の統計データが因果関係なのかどうかを見分けるためのチェックポイントは3つあるそうだ。すなわち、「まったくの偶然ではないか?」「第3の変数は存在していないか?」「逆の因果関係は存在していないか?」の3つである。

1つ目のチェックポイント:まったくの偶然である可能性

これは文字通り、因果関係どころか、何の関係もない、見せかけの相関関係である。

「地球温暖化が進むと、海賊の数が減る」と誰かが主張したら、この人はなんておかしなことを言っているのだろうと思うかもしれないが、図表1-2を見ると、実際、地球温暖化が進むのに合わせて、海賊の数が減っている。
 しかし、常識的には「地球温暖化が進んだから海賊が減った」とは考えにくい。一見この2つのあいだに関係があるように見えるのは、「まったくの偶然」だからである。このように、単なる偶然に過ぎないのだが、2つの変数がよく似た動きをすることを「見せかけの相関」と呼ぶ。
 米軍の情報アナリストのタイラー・ヴィーゲンが執筆した『見せかけの相関』には、「まったくの偶然」の例が数多く紹介されている。たとえば、「ニコラス・ケイジの年間映画出演本数」と「プールの溺死者数」(図表1-3)、「ミス・アメリカの年齢」と「暖房器具による死亡者数」(図表1-4)や、「商店街における総収入」と「アメリカでのコンピュータサイエンス博士号取得者数」(図表1-5)のあいだには、それぞれ強い相関関係があることが示されている。
 言葉にするとあまりにもバカげた関係だが、2つの変数をグラフにしてみると驚くほどきれいな相関関係が見てとれる。まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」といったところだが、こうした「まったくの偶然」によって表れる相関関係が意外にも多いということを心に留めておかねばならない。

2つ目のチェックポイント:第3の変数の可能性

本書が特に問題視している「第3の変数」とは、原因と結果の両方に影響を与えるものであり、専門用語で「交絡因子」と呼ぶそうだ。これは(特に統計に知らない方は)熟読するに値する話である。

例えば本書では「体力がある子どもは学力が高い」という通説(わたしは聞いたことがないのだが)について、「親の教育熱心さ」という第3の変数の存在をほのめかしている。教育熱心な親は、子供にスポーツを習わせ、食事にも気をつけ、勉強するように仕向けるから、体力も学力も高い傾向にあるだろう。しかしこの場合、子供の学力を上げているのは体力ではない、というものだ。

これは面白いと思ったので、わたしもひとつ事例を考えてみたい。

例えば、よく「親の年収が高いほど、子供の偏差値は高くなる傾向にある」と言われることがある。実際、東大の合格者について親の年収を調査すると確かに高いらしい。わたしとしてはこれが事実かどうかを確かめる術を持たないのだが、とりあえずここでは確かに相関関係にあるという前提に立っても良い。しかし「親の高年収」を原因として「子供の高偏差値」という結果がもたらされているかどうかは、また別問題である。

わたしが考えた第3の変数は、遺伝である。顔の違い、体つきの違い、体力の違いは結構な割合で遺伝する。最近ではADHDやLDなども遺伝の可能性が取り沙汰されている。そんな中、(差別的だという風潮から大きく取り上げられることはないものの)知的能力に遺伝の影響がゼロであると考えるのは、論理的にかえって不自然であろう。つまり親の頭の良さが親の高年収を生み出し、同時に、親の頭の良さが子供の頭の良さ(=子供の高偏差値)を生み出している。つまり実際には親の頭の良さが子供に遺伝しているだけ、という仮説である。これは交絡因子と呼べるであろう。

さて、念のため言い訳めいたことも書いておくが、これはあくまでも交絡因子を考える知的遊戯の一環であり、仮説である。なお本書を書いた中室牧子が書いた『「学力」の経済学』でも、学力は遺伝することが示唆されている。わたし個人としても、遺伝の影響がゼロだとは思えない。ただし結局は先天的なものよりも、環境や本人の努力の方が「学力」という結果に与える影響は大きいと直感的に考える人間の一人である。それにそもそも頭の良さという概念そのものが多面的に捉えられるべきである。

閑話休題。「親の年収が高いほど、子供の偏差値は高くなる傾向にある」という命題に対して、もうひとつ、第3の変数を考えてみた。それは「教育費」である。さて……これはどう考えるべきなのか。交絡因子ではないよね。でも「親の年収」と「教育費」は必ずしもイコールではない。「親の年収」と「子供の偏差値」の中間にある、そしてより直接的に子供の偏差値に影響を与える原因と捉えたら良いのかな。

うーん、面白い。第3の変数についてはもう少し掘り下げてみたいなあ。

最後のチェックポイント:逆の因果関係の可能性

これも(概念としては以前から知っていたが)改めて考えるとけっこう面白い。

すぐには事例を考えつかなかったので、本書を引用してみる。

たとえば、警察官と犯罪の関係について考えてみよう。警察官の人数の多い地域では、犯罪の発生件数も多い傾向がある。しかし、警察官が多いということが原因で、犯罪の発生件数が多いという結果を引き起こしたと考えるのにはやや無理がある(警察官→犯罪)。
 むしろ、犯罪が多い危険な地域だから、多くの警察官を配置していると考えた方が理にかなっている(犯罪→警察官)。このように原因と思っていたものが実は結果で、結果であると思っていたものが実は原因である状態のことを「逆の因果関係」と呼ぶ。

まとめ

本書の冒頭に書かれた因果推論の初歩の初歩だけを簡単にまとめてみたが、けっこう面白いなー。

巻末には「因果推論をもっと知りたい人のためのブックガイド」が解説付きで載っている。入門書は最初の2冊。

計量経済学の第一歩 -- 実証分析のススメ (有斐閣ストゥディア)

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岩波データサイエンス Vol.3

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Causal Inference for Statistics, Social, and Biomedical Sciences: An Introduction

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Experimental and Quasi-Experimental Designs for Generalized Causal Inference

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調査観察データの統計科学―因果推論・選択バイアス・データ融合 (シリーズ確率と情報の科学)

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「ほとんど無害」な計量経済学―応用経済学のための実証分析ガイド

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  • 作者: ヨシュア・アングリスト,ヨーン・シュテファン・ピスケ,大森義明,田中隆一,野口晴子,小原美紀
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2013/05/31
  • メディア: 単行本
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新しい計量経済学 データで因果関係に迫る

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Mastering 'Metrics: The Path from Cause to Effect

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Rによるやさしい統計学

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Stataによるデータ分析入門 第2版 経済分析の基礎からパネル・データ分析まで

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SPSSによる応用多変量解析

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佐々木正悟『なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか?』

仕事が予定通りに終わらない原因は多々あるし、仕事を予定通りに終わらせるためのアプローチも多々開発されてきた。しかし結局のところ、仕事を可視化するしかない。すなわちタスクを洗い出し、タスクの優先順位とdue date(締切)を可視化し、さらにはそれぞれの仕事を終わらせるための時間を可視化(それを見積と言う)することである。最後はこれらを継続して予定と実績の差をトラッキングすることで見積精度を上げていくとともに、時間は有限であるということを知るしかないよね……というのが本書の根本にある発想である。

完全同意である。

しかしこれが難しい。簡単なようで難しいから、みんな上手く行かないのである。

だから、強く認識するといった「精神論」ではなく、強制的に認識せざるを得ないような「ツール」に落とし込む。それが本書で述べられる「タスクシュート」という仕組みであり方法論である。その仕組みはエクセルツールにまで具体化されており、実際に購入することもできるのだが、買わなくても本書で考え方を学ぶことは出来る。

余談

エクセルも買ってみた。

けっこう良いと思う。

しかしながら、わたしは上記で書いたようなタスクの洗い出し、優先順位とdue dateの可視化、見積の可視化を何年も試行錯誤してきた。アプローチを一言で書くと「ToDoリストとスケジュール表の連結」である。繰り返しタスクや会議タスクをも全てToDoリストに落とし込み、それぞれの時間を予め見積もっておく。そしてそれを日々の予定スケジュールに30分単位で落とし込むとともに、実績も記載し、予定と実績の差異分析を行っているのである。そのような人間からすると、本書のエクセルツールは参考にはなるものの、結局は自分が試行錯誤したツールの方が役に立つと思った。わたしのツールは、わたし自身の問題意識を直接的にツール化したものだから。

なお、自分のツールはVBAすら使っていない。初歩的な関数だけである。どんな環境でも使えるようにというのがその理由であるが、最近はエクセルではなくGoogleスプレッドツールに変更してみた。チームメンバーにも使ってもらうためと、わたしの予定を(リアルタイムで)チームメンバーに公開するためである。この試みは(試行錯誤を続けているものの)概ね巧く行っている。チーム間の依頼タスクをこれで管理している。

そこまでの問題意識を持っていない方や、ツールに落とし込む時間のない方、こうしたツールに落とし込むことに慣れていない方は、著者のエクセルツールは十分に役に立つと思う。

長谷敏司『My Humanity』

My Humanity

My Humanity

『あなたのための物語』で極私的SFトップランカーに躍り出た長谷敏司の短編集。

特に最初の2つが凄い。「地には豊穣」では、『あなたのための物語』でも登場した「疑似神経制御言語ITP」による個々人のパーソナルな経験や嗜好の伝達が描かれ、またそうした技術と人間のアイデンティティの源泉とみなされる文化的背景の関係を掘り下げている。また「allo, toi, toi」では、生粋のロリコン(小児性愛者)で子供を殺してしまい投獄された主人公に対してITP技術が用いられる。どちらも、技術とアイデンティティのせめぎ合いが何とも言えない読後感を生んでいる。

オススメ。

ジェームズ・C・コリンズ+ジェリー・I・ポラス『ビジョナリー・カンパニー』

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジネスパーソンやMBAの学生にとっての定番にして、ビジョンを語る際の基本書。一流企業と、時代を超えて何十年何百年と繁栄するビジョナリー・カンパニーの違いを炙り出した本と書いて、概ね間違いはないだろう。その違いも、詳しくは本書を読んでいただくのが確実だが、ビジョンに自覚的で、かつ利益ではなくビジョンを最大の行動原則にしている企業が「ビジョナリー・カンパニー」の要件と言えそうだ。

何はともあれ以下を引用しておきたい。

収益力は、会社が存在するために必要な条件であり、もっと重要な目的を達成するための手段だが、多くのビジョナリー・カンパニーにとって、それ自体が目的ではない。利益とは、人間の体にとっての酸素や食料や水や血液のようなものだ。人生の目的ではないが、それがなければ生きられない。

なお個人的には、メルクのエピソードが気に入っている。本書を最初に読んだときは毎日のように「とにかくカネ」と言われていたため、ことさら響いた。

 メルクが「糸状虫症」治療薬「メクチザン」を開発し、無料で提供した(略)
メルクがこの決定を下した理由を聞かれたとき、バジェロスCEOは、このプロジェクトを進めなかったら、メルクの科学者、「人々の生命を維持し、生活を改善している仕事をしている」と自負する企業で働く科学者の士気が低下していただろうと指摘している。そして、こう語った。
 十五年前、日本をはじめて訪れたとき、日本のビジネス関係者に、第二次世界大戦後、日本にストレプトマイシンを持ち込んだのはメルクで、その結果、蔓延していた結核がなくなったと言われた。これは事実だ。当社はこれで利益をあげていない。しかし、今日、メルクが日本でアメリカ系製薬会社の最大手であるのは、偶然ではない。長い目で見ると〔こうした行為の〕結果は、必ずしもはっきりとは表れないが、なんらかの形で必ず報いられると思っている。

鈴木貴博『1日10分! 戦略思考トレーニング33』

1日10分!戦略思考トレーニング33―クイズでビジネス思考力を鍛える! (日経文庫ライト)

1日10分!戦略思考トレーニング33―クイズでビジネス思考力を鍛える! (日経文庫ライト)

累計数十万部を売っている『戦略思考トレーニング』シリーズは日経文庫だが、こちらは日経文庫ライトというレーベル。文庫というよりはムック本に近い感じ。けど問題が『戦略思考トレーニング』の既刊と多くが(全問が?)重複しているなあ。こういう雑な仕事は止めてほしい。

鈴木貴博『戦略思考マスターBOOK』

写真と図解で身につく 戦略思考マスターBOOK (別冊宝島 2286)

写真と図解で身につく 戦略思考マスターBOOK (別冊宝島 2286)

基本的なコンセプトは、日経から出ている『戦略思考トレーニング』シリーズと同じ。面白いと言えば面白いんだが、正直もう飽きちゃったなあ。このシリーズに初めて触れる方には良いかも。

鈴木貴博『10年後躍進する会社 潰れる会社』

10年後躍進する会社 潰れる会社 (角川書店単行本)

10年後躍進する会社 潰れる会社 (角川書店単行本)

イノベーションを専門とする戦略コンサルタントとして、文字通り、10年後(2014年発売なので10年後は2024年)に躍進する会社と潰れる会社を「預言」してみせようという本。

預言の対象となる業界は、自動車業界・テレビ業界・エネルギー業界・外食業界・銀行業界の5つ。

鈴木貴博『ぼくらの戦略思考研究部 ストーリーで学ぶ15歳からの思考トレーニング』

わたしが最も注目している書き手である鈴木貴博の本。これは物語形式で、戦略思考を学んでいこうというものである。『戦略思考トレーニング』シリーズもそうだが、最近、この手のトレーニング本をけっこう出しているなあ。個人的には、この手のトレーニング本よりも、鋭い本をもっと出してもらいたいんだが。

Mari『love HOME the 収納』

love HOME the 収納 シンプルで美しい暮らしを作る片づけルール 決定版

love HOME the 収納 シンプルで美しい暮らしを作る片づけルール 決定版

the 収納とは大きく出たなー。

けど正直「収納」というよりは「色味」の本だと思う。もっと言うと色味レス。

徹底的に色味を排して「白」で家作りをすることでゴチャゴチャした感じがなくなる、というのが本書から学んだ最も大きな事柄である。

白色の小物が色々と紹介されているので、その点では有り難い。