村上春樹『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

村上春樹の最新長編。

わたしは貪るように読んでしまったのだが、Amazonではとにかく評判が悪い。トップレビューの幾つかしか読んでいないのだが、不評の理由は大きく2つあるようだ。

ひとつは、最近の村上春樹の文体が以前と少し変わったこと。正確には「以前」というと語弊があって、村上春樹はずっと文体を鍛え続けているし、特に短編や短めの長編では意図的に文体を変えているのだが、それはそれとして、最近はきゅうりのようにクールといった春樹節の言い回しは減っている気がする。とにかくフラットなのだ。ただただ読みやすい。でもこれが、村上春樹のキザな感じの文体を気に入っていた人には随分と不評なのである。わたしはそんなに悪くないと思うんだけどね。物語に集中できるから。

もうひとつは、物語の仕掛けというか構造がよく似ていること。自分に都合の良いガールフレンドが出てくることや、得体の知れない存在が出てくることや、地下に潜って得体の知れない世界に行くこと。ただ、村上春樹が「この世ならざる世界」や「この世ならざる存在」を何度も何度も執拗に書き続けるのは何故なのかと考えていくと、同じ構造だから飽きたという評価は(少なくともわたしには)ちょっと違うような気がする。新しいストーリーが読みたいなら社会派ミステリでも読んでおけば良い。

具体的な感想は下巻で。

田村耕太郎『頭に来てもアホとは戦うな!』

頭に来てもアホとは戦うな!

頭に来てもアホとは戦うな!

刺激的なタイトルだが、要は時間も体力も集中力もほとんど全てのリソースは有限であるというのが本書の前提にある。すなわち、その限られたリソースは、自分がより良い人生を歩むために使われるべきであるのだから、多少気に入らないことがあったり気に入らない奴がいたり自分に突っかかってくる奴がいたりしても、そんなのに関わるとかえって損するじゃないかという主張である。わたしはその主張に全面的に同意するのだが、わたしもウェットな人間なので、なかなかそう上手くドライな行動を一貫することができない。で、結局わたしは損しているのである。そんな悩みがあったので本書を手に取ったのだが、言っていることは結局、先ほど書いたことに尽きる。その意味では同じ内容が繰り返されているだけの本であり、値段分の価値を感じない人も多いかもしれない。

一点だけ個人的に凄く面白かったのは、この人自身、まさにわたしと同じくウェットな人間で、アホとしつこくやりあって失敗を何度もしており、その失敗談が赤裸々に語られている点である。この人は大所高所から理想論を言っているわけでも、聖人君子でもない。わたしと同じく何度も何度も失敗して、この境地に辿り着き、乗り越えたのだ。今、インターネットで調べたら評判が結構悪いのだが、この本の赤裸々な自己開陳自体は評価できると思う。

日経BP社『日経テクノロジートレンド展望2018』

日経テクノロジー展望2018 世界を動かす100の技術

日経テクノロジー展望2018 世界を動かす100の技術

技術の発展により様々な分野で技術やソリューションの融合と再生が進んでいるとのことだが、それを「止まらない心臓」「値段を変える」「ぶつからないクルマ」「お金が変わる」「生物を利用した物質生産」「発電を極める」「社会インフラを丸裸に」「多分野に挑むVR・AR」「『つながる』ものづくり」「変貌する建築技術」「人の五感を超える機械」という11の切り口で色々な最新テクノロジーを紹介してくれている。さらに「人の再生」「車の再生」「現場の再生」「建設の再生」「ITの再生」という切り口でも紹介してくれている。まあこうなると切り口が多すぎて「うん、社会の色々なところでイノベーションが起きているんだね、素晴らしいね」という感想しか起こらない。この手の本は買う前は凄く楽しいんだが、いざ読むとひとつひとつの技術の掘り下げが不足しており、あんまり楽しくないんだよな。これなら雑誌でエエやんっていう。

まあそれでも100以上のテクノロジーが紹介されているので、木造高層建築の話とか、農業ドローンの話とか、本気で別の本を買いたくなるようなものも幾つかあるんだけどねえ。

粂原圭太郎『頭の中を無限ループする“あの曲”を一瞬で消し去るすごい集中法』

頭の中を無限ループする“あの曲”を一瞬で消し去るすごい集中法

頭の中を無限ループする“あの曲”を一瞬で消し去るすごい集中法

んー。まあまあかなー。

具体的なのは良かったが、値段分の価値はないように思う。

個人的には、九九を逆に唱えることで雑念(曲が頭の中を無限ループする現象など)を取っ払って強制的に集中モードに入るという考え方は面白かった。マントラみたいなものだろうか。何を隠そう、実はわたしも、文字通り「マントラ」を真面目に探した時期があった。自分に「集中力」や「落ち着き」のスイッチを入れるための呪文だ。ただ、信仰者ではないのに仏教のマントラを使うのは違う気がするし、素数(円周率でも良いが)を唱えるのはさすがにジョジョに影響され過ぎという気もするし、そもそも素数をそんなに覚えていない。イチローのような「ルーティン」でも良いが、それもなかなか見つからない……というので、結局探すのを諦めた。もう一度自分なりのマントラを探してみようかな。

平野友朗『仕事を高速化する「時間割」の作り方』

仕事を高速化する「時間割」の作り方

仕事を高速化する「時間割」の作り方

著者が考える、仕事のスピードを上げるポイントは4つである。

  1. 一つのことに集中する
  2. 情報を一元管理する
  3. 繰り返しの業務の効率を突き詰める
  4. 一つ一つの作業スピードを上げる

どれも全く同意である。

最近「マルチタスク」についてよく考えるが、人は本質的に厳密な意味でのマルチタスクは不可能だ。手は一応2つあるが、頭はひとつしかなく、2つ以上のことを同時にこなすことはできない。もちろん「マルチタスクのようなもの」は工夫次第でできる。例えば、時間帯によって瞬間的に頭を切り替える。例えば、部下に仕事Aを降っている間に自分が仕事Bをして、仕事Bの作業の合間に、部下から上がってきた仕事Aのレビューをする。これは広義にはマルチタスクかもしれないが、頭の動きが厳密にマルチタスクで動いているわけではない。結局、仕事のスピードを上げるためにやれることとしては、上記に加えれば、仕事を部下や協力会社(時には上司)にいかに振るか、というぐらいしか残されていないのだ。あとは本人の練り上げられた思考力のスピードに依存する。

その辺のことを、本書は噛み砕いて、かつ掘り下げて色々と説明してくれている。本書の目次は「付箋を使うな」「ノートを使うな」「優先順位はつけるな」「手帳を使うな」「メールに時間をかけるな」というキャッチーなものになっているが、わたしは本質的なアドバイスをしてくれていると思った。

特に良いと思ったのが、本書のタイトルにもなっている「時間割」という発想である。Todoだのタスクだの面談だの移動時間だのバッファ時間だのを全部「時間割」にまとめ上げ、いつ何をどういう順番でやるかを整理するというものなのだが、ToDoに欠けている実施時間の概念をスマートに解決しており、とても良い。これは何となく自分の中にあったアイデアなのだが、仕事が硬直化するかなーと思ってやっていなかった。しかし改めて説明されると、これは使いやすそうだ。

時間割の作り方も、大きな石→小石→砂→水と、要は動かすのが難しい打ち合わせやマイルストーンを先に埋め、そのマイルストーンに紐づく作業を埋めよというものだ。これ自体は当たり前なのだが、わたしがなるほどと思ったのは、むしろ砂や水と呼ばれる、予定を多少動かしても何ら問題のない、日々のメールチェックや経費精算といった事柄に対しても、明白な「時間割」すなわち「予定」としてスケジュールを埋めていく、というものだ。これらは何となく気が乗らない時や疲れた時に実施していたが、気が乗らないとなるといつまでもメールチェックをして、そのままインターネットをして…となる。全てのタスクを時間割に落とし込むことで、やる気があろうがなかろうが毎日Dueと戦うことになり、非常に生産性が上がる気がする。

早速実行しようと思う。

菅原裕子『コーチングの技術』

コーチングの技術 (講談社現代新書)

コーチングの技術 (講談社現代新書)

昔から持っていたコーチングの本。

コーチングの本は山ほどあるが、これは日本におけるコーチング黎明期の本と言って良い。読みやすい。

つるの剛士『つるの将棋女流七番勝負』

つるの将棋女流七番勝負

つるの将棋女流七番勝負

先日読んだ『つるの将棋七番勝負』の続編。
incubator.hatenablog.com

今度は女流棋士との七番勝負である。

個人的には、男と女に体力の差はあれど知力の差はない(とされている、少なくとも脳の働きの特性はあれど知能の優劣は証明されていない)のだから、女流棋士という役割というか制度に、あまり好意的な印象を抱いていなかった。しかし事実として将棋の対局には物凄い体力・集中力が必要とされるわけで、別に男女分かれていても、それはそれでありなのかもしれないと思うようになった。どちらかと言えば、今の制度にいちゃもんをつけるよりは、ありのままを楽しもうという態度である。

実際に女流棋士たちのインタビューを見てみると、男以上に早くプロになって逆に苦しい思いをした人や、男顔負けの激しい攻めをする人など、色々と個性豊かである。

面白い。

三菱商事株式会社『BUSINESS PRODUCERS 総合商社の、つぎへ』

BUSINESS PRODUCERS 総合商社の、つぎへ

BUSINESS PRODUCERS 総合商社の、つぎへ

商社が商社を再定義した本である。

三井物産も以前、『総合商社図鑑 未来をつくる仕事がここにある』という本を作ったのだが、どちらもビジュアル重視で感性に訴えかける本である。
incubator.hatenablog.com

商社=問屋、右から左に流して利ざやを得る、というイメージが強いので、その先入観を取っ払うためにビジュアル重視なのだろう。

少し脱線すると、インターネットが発達して誰でも世界中の情報にアクセスできるようになった結果、こうした問屋的なビジネスは価値を失うという見方が、一昔前の主流派の考え方であった。わたしもご多分に漏れずそう思っていた節がある。しかし実は、この情報化社会においては「逆説的に」問屋としての機能はますます重要になっている、というのがわたしの見立てである。それは情報が少なすぎるからか? それとも情報にアクセスするのが難しいからか? どちらも否。情報が多すぎるのである。昔は、普通の人や会社では世界中の情報にアクセスすることが極めて困難であったから問屋は価値を出せた。今は、普通の人や会社では多すぎる情報を見分ける・仕分けることが極めて困難であるから問屋は価値を出せる。

その意味で、旧来的な商社の価値は未だに十分ある。

しかし本書は問屋としてではなくビジネスプロデューサーとしての商社の価値に側面を当てた本である。商社は今、総合商社と専門商社で物凄い断絶がある。ほとんどの専門商社は、旧来的な問屋的ビジネスモデルである。右から左に流して、大量購入によるコストメリットや物流上の保証により利ざやを得る問屋的なビジネスモデルだ。しかし大手4社ないし5社の総合商社は、総合商社により少しずつ濃淡があれど、問屋的なビジネスモデルでの売上の割合はせいぜい半分程度である。残りの半分は、本書のタイトルでもあるビジネスプロデューサー的な動き、あるいは投資銀行的な動きで金を稼いでいるのである。その辺の動きや狙いが、本書を読むとけっこうよくわかる。

菊池寛『真田幸村』

真田幸村

真田幸村

真田幸村というのは後世の歴史小説などで使われて有名になった名前だが、元々は(何度か名前を変えている中でも)信繁が最も長くつけていた名前のようである。読みやすい文章で、古典の割にはまあまあ面白く読めた。

菊池寛『応仁の乱』

応仁の乱

応仁の乱

久々の青空文庫。

歴史小説かと思ったが、歴史叙事詩というか歴史ドキュメンタリーというか、そんな感じ。要はもっと淡々としている。でも「応仁の乱」は長く続いたことと社会がメタメタに荒廃したことぐらいしか知らなかったから、その意味ではなかなか興味深く読むことができた。

ひなた華月『雛菊こころのブレイクタイム2』

雛菊こころのブレイクタイム2 (講談社ラノベ文庫)

雛菊こころのブレイクタイム2 (講談社ラノベ文庫)

第一弾がイマイチしっくり来なかったのだが、2冊セットで買っていたこともあり、何かもったいないなと思って読了。

しかし「うーむ」という感想しか出て来ない。ほとんど友達ゼロなのに、学園で人気の先輩(女)にベタベタと引っ付くスキルがあるというのがそもそもリアリティに乏しい。でもリアリティというと何か違う気もする。要は、シチュエーションが「こなれていない」というのが言いたい。何か文章が好きになれないというのもある。

つるの剛士『つるの将棋七番勝負』

つるの将棋七番勝負

つるの将棋七番勝負

つるの剛士といえば今でこそ釣りや将棋などの多趣味で知られるが、昔はいわゆる「おバカタレント」だった。

わたしは馬鹿なのは仕方ないと思っているが、馬鹿そのものを売りにするのは見苦しくて好きになれない。デブやらチビやら服が真っ赤とかはまあ「個性」として認知する余地があるが、馬鹿というのは個性ではなく能力が未熟なだけだと思うからである。加えて「おバカタレント」は、自分の実力以上に自分を馬鹿に見せて笑いを取ろうとする。その手技が「能ある鷹は爪を隠す」のことわざのごとくスマートであれば良いのだが、やっていることと言えば誰でもわかる問題をわざと間違えてみせるという程度のそれこそ馬鹿が馬脚を現す程度でしかなく、その様はピエロや道化というにも未熟で無様で、とうていわたしは面白いと思えなかったし、馬鹿が馬鹿を演じる無様な演目で笑う大衆もまた馬鹿なのだ。

閑話休題。そんなこんなでわたしは「おバカタレント」の代表格であったつるの剛士のことは別に何の興味も抱いてはいなかったし、どちらかと言えばやんわりと嫌いな方だったのだが、友人が是非にというので借りて読んでみたところ、印象が一変。この人、面白いな。何が面白いって、別に面白いことを言ったりやったりするわけではないが、「趣味人」として自分自身がしっかりと楽しく振る舞っている。大の大人のそのような様を見るのは、実はけっこう面白かったりするのである。そして将棋。将棋の「観戦記」は当然ながら将棋に詳しくないと地味な戦いになるのだが、本書はつるの剛士が棋士から上手く話を引き出しており、読み物としても普通に楽しめる出来である。

第二弾(つるの将棋女流七番勝負)もあるらしいから、こちらも是非読んでみようと思う。

ひなた華月『雛菊こころのブレイクタイム1』

雛菊こころのブレイクタイム1 (講談社ラノベ文庫)

雛菊こころのブレイクタイム1 (講談社ラノベ文庫)

これも前日と同じく『米澤穂信と古典部』の対談で紹介されていた本。

これはもうレーベルからライトノベルなのだが、とにかく主人公が浅いのと、その浅い心情が全て地の文で書かれているから(ちなみに言うとセリフでも丸出しだ)、読んでいて驚きが全然ない。小説を書く時に、人物の心情を「嬉しい」だの「悲しい」だのといった安易な言葉で全て書いてしまったら読み手としては面白くないというのが常識なのだが、本書はほぼ確信犯的にそれを逆手に取って、全て「嬉しい」「悲しい」と書いているのである。まあ少年少女はこれを読んで主人公に感情移入するのかもしれない。

市井豊『聴き屋の芸術学部祭』

聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

先日読んだ『米澤穂信と古典部』で、日常の謎にチャレンジした作品を米澤穂信が挙げており、興味を持って購入したのが本書。

私が読みたいと思ったのは「日常の謎」であって、ライトノベルではない。だが本書はライトノベル風味のミステリである。文章がなあ。

岡部武『グローバルCMS導入ガイド』

グローバルCMS導入ガイド

グローバルCMS導入ガイド

CMSはキャッシュ・マネジメント・システムの略。つまり資金管理のシステムである。

仕事の関係で入手して読んだのだが、今見たら、何と第2版が出ている。そんな! 感想を書く気が失せた。