西田大『英語はメンタルで決まる』

英語力はメンタルで決まる?自分が変わる英語学習のコツ26

英語力はメンタルで決まる?自分が変わる英語学習のコツ26

英語は「量より質」は間違いで、「質より量」である。量をこなせば必ず話せるようになるし、まず量ありきなのだが、その量を上手く成果に繋げていくためには質も必要だ……というロジックで勉強法を整理している。

個人的には、凄く納得感が高い。英語のハウツー本ばかり買ってはならないという指摘もそのとおり。まさにわたしがそうなのだが、そんなものを買って読んでいる暇があったらそもそもの勉強をしろよというね。おっしゃるとおりです。

全体的に良い本だと思う。

なお、今は(社会人の立場からすると)TOEIC全盛時代だが、実は学生にとっては英検全盛時代でもある。英検の資格取得が大学入試や大学の単位に影響するとあって、昔以上に学生による英検の受験者が多いらしい。しかし準1級や1級になると大学生や社会人が大半を占めるそうだ。英検は、問題の質が非常に高い上、安い値段で面接試験まで受けられるので、力試しに持ってこいということのようだ。試験を受けるメリットもよくわかった。

小川哲『ユートロニカのこちら側』

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

昨日読んだ『世界の涯ての夏』と同じく、ハヤカワの何とかという新人賞を受賞した作品のようだ。

『世界の涯ての夏』には作者のインタビューが載っていたのだが、本書には東浩紀・小川一水・神林長平の選評が載っていた。インタビューはともかく選評は載せなくて良いだろう。今まさに読んだ本を、売り手が「小粒だ」とか「つまらん」とか書いているのはどうかと思う。興醒めする。それに別の本の選評も興味ないし。

内容?

内容はまあまあです。

情報社会が進展して、生体情報が売り買いされる近未来が舞台である。モンスター企業が街そのものを買い取って、そこに住む人を「テスター」のような形にして募集をかける。審査が通り、そこで暮らす資格を得た人は、食べたものから移動した距離や場所、おしっこやうんこの情報まで、全ての生体情報が企業に収集される。その代わり、高級マンションに住めて、働かなくても暮らせるだけのお金をもらうことができるし、その気があるならさらに働いてお金を増やすこともできる。要はプライバシーを全面的に明け渡す代わりに便益を得るということなのだが、これは正直、SFと言えるかどうか。なぜなら、ここで描かれている社会は既に半分以上2018年現在でも実現されているからだ。バンドをはめて健康情報を収集され、検索履歴やアクセス履歴や位置情報をGoogleその他に収集され、購入履歴はAmazonに収集されている。交通機関の利用情報やSuicaの利用情報はマーケティング情報として既に企業に売買されている……これを生体情報の売買と言わずして何というのだろう。

本書に出てくる「情報等級」という概念もまた然り。要は、海外に行ったりせずに生体情報をきちんと提供してくれる人や、生体情報の提供に批判的な思想を持ったり行動したりしない人は、情報等級が高くなり、得られる収入が増えたりするのだが、これも既に半分以上が既に実現されている。例えば、急ブレーキや急発進など、いわゆる「運転の荒い人」を運転履歴で見分け、格付けし、運転のスムーズな人は事故率も低いだろうというので月々の保険料が少なくなるという自動車保険がある。また、企業が収集・判定した生体情報を基に健康年齢を判定し、健康年齢が若ければ病気になる可能性も低いよねと言うので月々の保険料が変わる保険なども発売される見込みである。これも、情報等級の仕組みや、情報等級を前提とした生体情報の明け渡しそのものである。

まとめよう。内容を「まあまあ」と書いたのは、本書の世界観は確かにリアルなのだが、リアルすぎてSF的な想像力・創造力があまり足りていないというか、現実と地続き過ぎてジャンプが足りないとわたしは思う。下手したら5年後か10年後には実現されているような未来で「SF」と言われても、ちょっとスケールが小さくないかと思ってしまう。

つかいまこと『世界の涯ての夏』

世界の涯ての夏 (ハヤカワ文庫JA)

世界の涯ての夏 (ハヤカワ文庫JA)

「涯て」とは、唐突に世界に登場した異次元空間のようなもので(作中では「異時間」がどうこう書いていた)、まあ要するによくわからないんだけど放っておくと「涯て」が広がって世界が飲み込まれ、じわーっと滅びてしまう性質のものである。なので少しでもその拡張を押さえながら、でも今日明日に世界が滅びるわけではないので大体いつもどおり生きている、という世界線のSFである。

村上春樹みたく、チャプターごとに視点が切り替わり、異なるシチュエーションで物語が展開されるので、その意味では飽きさせない。また、そうした複数の物語が収束していく手際もなかなか良かった。けど、いかんせん地味だな。これを「静謐」とか言っちゃうのはちょっと違うと思う。面白かったんだけどね。

村上春樹『村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事』

村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事

村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事

これまでに翻訳してきた70冊以上の翻訳にコメントを付け、柴田元幸との対談を収録している。

柴田さんとの対談はしょっちゅうやっているので正直あまり有り難みはないが、読めばちゃんと面白い。定番コンテンツって感じだな。あと過去の翻訳を時系列で並べてくれているので、その点では凄く参考になった。カート・ヴォネガットやブローティガンは訳していないんだなとか、何だかんだでグレイス・ペイリーはもうすぐ全部訳し終わるのねとか、チャンドラーの長編も実はあと1冊なのかとか、この時系列と対談だけで、けっこう色々なことがわかる。

高山俊『コンサルタントが入社1年目に学ぶエクセルの教科書』

コンサルタントが入社1年目に学ぶエクセルの教科書

コンサルタントが入社1年目に学ぶエクセルの教科書

コンサルタントのデータ分析においては、関数や機能を駆使した複雑なシートを作っているように誤解されがちだが、(ちゃんとしたコンサルタントは)どちらかと言えば誰でも読み解けるように構造化したシンプルなシートを作っていると思う。それはもちろん難解な計算を要するシートは読み解いてもやはり難解なのだが、それでも「複雑」には極力ならないよう、構造化したシートを作っているように感じた。

で、本書の著者も同じ発想である。関数をたくさん教え込むのではなく、最低限の関数を使ってエクセルのデータを構造的に(すなわちデータベースのように使って)分析しようとするアプローチだ。これは最近読んだ、『たった1日で即戦力になるExcelの教科書』や『Excel 最強の教科書[完全版]』のどちらとも違うコンセプトである。この2冊は、どちらかと言えば必要な機能や関数を網羅的に押さえておきましょうという本である。

incubator.hatenablog.com
incubator.hatenablog.com

なお本書は、Excelの機能や関数を多く覚えさせることはしないが、マウスを使わなくて良いようにショートカットは徹底的に覚えてくださいというスタンスである。よって今回は、『たった1日で即戦力になるExcelの教科書』と『Excel 最強の教科書[完全版]』の内容も合わせて、自分用のショートカットリストを以下に作成してみた。

まあこの手のリストはネットで調べたら腐るほど出て来るんだけど、ブックマークだけして使わなければ意味が無いので、自分でこの3冊の内容をまとめ直すことに意味があると考えた。ただしCtrl系とAlt系で分類するようなことはしていない。また網羅的なリスト作成もしていない。あくまでも使いそうなものだけをピックアップ。網羅性で言えば、例えば↓なんてどうだろう。124個だって。ワオ!

excel-hack.com

自分用ショートカット(作成途上)

作成途上というのは、実際に使ってみると、Excelのバージョンによってショートカットがちょいちょい変わっているためである。会社の貸与PCに搭載されているExcel 2016で検証しようとしていたが、実は今、Excel 2010を搭載したクライアント先に常駐しており、2016での作業が進まない。なのでこれはあくまでもドラフト版である。

  • 移動
    • Ctrl + 矢印キー : 文字や数字が入力されているセルの切れ目まで一気に移動
    • Shift + 矢印キー : 複数のセルを選択
    • Ctrl + Shift + 矢印キー : Ctrl + 矢印キーで移動した範囲を一気に選択
    • Ctrl + Home/End : セルA1/使用中の最終セルへの移動
    • Ctrl + FN + 上下キー : 左右のシートに移動
    • Ctrl + Tab : 別のエクセルファイルに移動
    • Alt + Tab : 別のアプリケーションに移動
    • Windowsマーク + D : 全てのアプリケーションを最小化してデスクトップを表示
  • コピー&ペースト
    • Ctrl + C / Ctrl + X : コピー / 切り取り
    • Ctrl + V : コピー / 切り取りしたものを貼り付け
    • Alt + E + S + F/V/T + Enter : 形式を選択して貼り付け
    • ①Ctrl + C ②← ③Ctrl + C ④→ ⑤Ctrl + Shift + ↑ ⑥Enter / Alt + E + S + F : コピーした数式を同じ列の一番下までコピー
  • 入力・操作
    • Ctrl + Z : 直前に行った操作を元に戻す
    • F4 / Ctrl + Y : 直前に行った操作の繰り返し
    • Esc : 操作の途中でキャンセル
    • Ctrl + Enter → 複数セルへ一括入力
    • Ctrl + D → 1つ上のセルを複写
    • Ctrl + R → 1つ左のセルを複写
    • Ctrl + Space → アクティブセルがある列全体を選択(入力モードが半角英数)
    • Shift + Space → アクティブセルがある行全体を選択(入力モードが半角英数)
    • Ctrl + -(マイナス) → セル、行、列を削除
    • Ctrl + +(プラス) → セル、行、列を挿入
    • F2 : セルの内容の編集
    • Alt + Enter → セル内で改行
    • F4 : 絶対参照と相対参照を切り替え
    • Ctrl + A : 表選択 / 全セル選択
    • Ctrl + Shift + L : 選択している表にフィルタを適用
  • 書式設定
    • Ctrl + 1 : 書式設定ウィンドウの表示
    • Alt → H → L → 1 / Alt → H → R : 左揃え / 右揃え
    • Alt → H → F → 1 : 文字色の変更
    • Alt → H → H : 背景色の変更
    • Alt → H → F → F : フォントの変更
    • Alt → H → O → I : 列幅の自動調整
    • Ctrl + Shift + 1 : 数字に桁区切りのカンマ
    • Ctrl + Shift + 5 : 数字をパーセント表示に変更
    • Alt → H → 0/9 : 小数点の桁数の増減
    • Shift + Alt + → : グループ化
  • シート操作・ファイル操作
    • Shift + F11 : 新しいシートを作成
    • Ctrl + S : 上書き保存
    • F12 : 名前をつけて保存
    • Ctrl + N : 新しいブックを開く
    • Ctrl + W : 操作しているファイルを閉じる
    • Alt → F → X : 操作している全てのエクセルファイルを閉じる
  • その他
    • Ctrl + F / Ctrl + H : 検索機能 / 置換機能
    • Ctrl + F2 : Excel 2007以降で印刷プレビューを表示
    • Ctrl + P : 印刷

藤井直弥+大山啓介『Excel 最強の教科書[完全版]』

Excel 最強の教科書[完全版]――すぐに使えて、一生役立つ「成果を生み出す」超エクセル仕事術

Excel 最強の教科書[完全版]――すぐに使えて、一生役立つ「成果を生み出す」超エクセル仕事術

Excelの入門書・解説書を本屋でざーっと眺めてみたが、結局これが一番使いやすくて網羅感があるように思う。

昨日の本も売れていたようなので買ってみたが、本書の方が後々まで参照できる。一冊だけ手元に置くなら本書かな~。

incubator.hatenablog.com

吉田拳『たった1日で即戦力になるExcelの教科書』

たった1日で即戦力になるExcelの教科書

たった1日で即戦力になるExcelの教科書

いわゆる網羅系のExcelの入門書。けっこう分厚いが、本書によれば、Excelのスキルを上げるのに必要なのは「関数」と「機能」と「アイデア」の3つらしい。

まず関数。400以上ある関数のうち、可能であれば67個、最低限6つ知っておけば何とかなるというのが著者の主張である。その67個とは、SUM/SUMIF/SUMIFS/PRODUCT/MOD/ABS/ROUND/ROUNDUP/ROUNDDOWN/CEILING/FLOOR/COUNT/COUNTA/COUNTIF/COUNTIFS/MAX/MIN/LARGE/SMALL/RANK/TODAY/YEAR/MONTH/DAY/HOUR/MINUTE/SECOND/WEEKNUM/DATE/TIME/WORKDAY/DATEDIF/IF/IFERROR/AND/OR/VLOOKUP/HLOOKUP/MATCH/INDEX/ADDRESS/INDIRECT/OFFSET/ROW/COLUMN/LEN/FIND/LEFT/MID/RIGHT/SUBSTITUTE/ASC/JIS/UPPER/LOWER/PROPER/TEXT/CODE/CHAR/CLEAN/PHONETIC/CONCATENATE/ISERROR/REPLACE/TRIM/VALUE/NETWORKDAYSである。そのうち、必須の6つとはIF関数・SUM関数・COUNTA関数・SUMIF関数・COUNTIF関数・VLOOKUP関数である。わたしも必須の6つは当理解しているが、この67個の習熟度についてはせいぜい6割か7割ってところだなあ。

続いて機能。重要機能は9つと定義されている。正直ピボットテーブルはあんまし使っていないのだが、まあ重要なのは確かか。

  1. 条件つき書式([ホーム]タブ→[条件つき書式]をクリック)
  2. データの入力規則([データ]タブ→[データの入力規則]をクリック)
  3. 並べ替え([データ]タブ→[並べ替え]をクリック)
  4. オートフィルタ([データ]タブ→[フィルタ]をクリック)
  5. ピボットテーブル([挿入]タブ→[ピボットテーブル]をクリック)
  6. オートフィル(連続データの起点となるデータを入力したセルのフィルハンドルをドラッグ)
  7. シートの保護([校閲]タブ→[シートの保護]をクリック)
  8. 検索と置換(ショートカットCtrl + H)
  9. ジャンプ(ショートカット Ctrl + G)

最後のアイデア。こちらは特段のソリューションはないようだ。工夫しながらやってくれという程度である。

その他に、ショートカットの解説もある。これもよくある定番なのだが、わたしはあまり真面目にショートカットは覚えてこなかった。正直、ショートカットよりも頭の働きを上げた方がよほど生産性向上に繋がるからだ。しかし折角の機会なので、ここで挙げられたショートカットは覚えておこう……と思ったのだが、この本のショートカットはかなり初歩的だな。わたしも最後の4つ意外はすべて知っていた。

  • Ctrl + 1 → セルの書式設定を開く
  • Ctrl + S → 上書き保存
  • Ctrl + Z → 操作を元に戻す
  • Ctrl + F → 検索機能
  • Ctrl + H → 置換機能
  • Ctrl + Enter → 複数セルへ一括入力する
  • Ctrl + D → 1つ上のセルを複写する
  • Ctrl + R → 1つ左のセルを複写する
  • F4 → 数式の絶対参照を設定する
  • Ctrl + F2 → Excel 2007以降で印刷プレビューを表示する
  • Shift + F11 → シートを追加する
  • Alt + Shift + = → オートSUMを実行する
  • Ctrl + C → コピー
  • Ctrl + V → 貼り付け
  • Ctrl + X → 切り取り
  • Alt + Enter → セル内で改行する
  • Ctrl + Space → アクティブセルがある列全体を選択する
  • Shift + Space → アクティブセルがある行全体を選択する(ただし、アクティブセルの入力モードが半角英数の必要あり)
  • Ctrl + -(マイナス) → セル、行、列を削除する
  • Ctrl + +(プラス) → セル、行、列を挿入する

その他、おせっかい機能の削除というのもあり、これはなかなか役立ちそうだったので、個人的に気になったものだけメモ。そう言えば設定とか真面目にやってなかったなあ。

  • 勝手に文字修正をしないようにする([オートコレクトのオプション]の[オートコレクト]タブから「入力中に自動修正する」のチェックを外す)
  • 自動的にハイパーリンクを貼られないようにする([オートコレクトのオプション]の[入力オートフォーマット]タブから「〜をハイパーリンクに変更する」のチェックを外す)
  • 不可解な動作が起こったときは「Scroll Lock」「Number Lock」「インサートモード」を誤って押した可能性が高いので、確認し、再度押す

米澤穂信『真実の10メートル手前』

真実の10メートル手前

真実の10メートル手前

『さよなら妖精』『王とサーカス』に続き、太刀洗万智という人物が登場している。今回は短編集だが、なんというか、ハードボイルドというか、救いのない話というか、まあそんな感じのミステリが多い。

何となくラストが特徴的な気がした。本来小説終わるべき箇所(というか、よくある小説が終わる箇所)の少し前で、ブツンとスイッチが切られるように唐突に小説が終わっている感じがするんだよな。上手く言えないけど。

米澤穂信『王とサーカス』

王とサーカス

王とサーカス

『さよなら妖精』に続き、太刀洗万智という人物が登場している。『さよなら妖精』では彼女は高校生だったのだが、本書では既に大人になり、新聞記者を経てフリーのジャーナリストとして独立している。そして旅行事情の記事を書くためにネパールを訪れ、今なお謎多き史実である事件に遭遇する……というアウトラインである。

ネパール王族殺害事件 - Wikipedia

これも前作『さよなら妖精』のユーゴスラビア紛争と同様、極めて血生臭い事件であり、また個人の思惑を超えて、民族や国家といった大きなパワーが働いた事件である。つまり一人の人間がどうこうできる類の事件ではない。しかし太刀洗万智は望むと望まざるとに関わらず、深く巻き込まれていく。そして今回も、ヘビーである。

しかし面白い。

このミステリーが凄いとかで第1位になったらしいが、それも頷ける出来だ。

米澤穂信『さよなら妖精』

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

元々は古典部のシリーズものとして書いたようだが、色々あって古典部ではない形で出版することになったようだ。

その色々とは、作者的にはまさに「色々」なのだが、読者的に最も重要なのは、作品の持つトーンである。古典部シリーズは「日常の謎」をモチーフとした作品であり、高校生ならではの成長や葛藤・挫折などが描かれている。

一方、本書もやはり日本の高校生たちが主人公なのだが、高校生活ではなく、ユーゴスラビアの史実をモチーフとした作品である。

ユーゴスラビア紛争 - Wikipedia

ユーゴスラビア紛争では文字通り多くの血が流れた。皮肉にも当時のユーゴスラビアは殺し合いが「日常」だったわけだが、これはとてもじゃないが「日常の謎」とは言えない。詳細は実際に手に取って読んでほしいが、けっこうヘビーな作品である。わたしは文字通り頭を殴られるような衝撃を受けた。こう来るかー。

なお、本書のヒロイン(の一人)である太刀洗万智は、新聞記者やフリーのジャーナリストになっており、『王とサーカス』や『真実の10メートル手前』で主人公を務めている。すなわち本書は、太刀洗万智シリーズの前日譚と言って良いだろう。

冨田和成『営業』

営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて

営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて

野村證券で爆発的な成果を出し、その後フィンテック企業を創業した著者による2冊目の本。

1冊目が『鬼速PDCA』というPDCAに着目した愚直な本だったのだが、2冊目はさらに愚直に『営業』である。
incubator.hatenablog.com

しかし良い本だ。面白くはない。ないんだが、愚直だ。結局やるべきことを圧倒的な質と量で愚直にやる奴が大成功する。その冷厳たる事実に耐えられない弱い人間が裏技や魔法を求めるのだが、答えは結局「ここ」にしかない。

株式会社APMコンサルティング『決算書から読み解くビジネスモデル分析術』

決算書から読み解くビジネスモデル分析術 Excelによる財務データ分析と事業戦略への活用手法

決算書から読み解くビジネスモデル分析術 Excelによる財務データ分析と事業戦略への活用手法

Amazonのレビューでも書かれていたが、これはビジネスモデルの分析術と言うよりも単に決算書の分析術のような気がする。で、それで良いではないかと。タイトルに偽りありという気がする。

村上春樹+川上未映子『みみずくは黄昏に飛び立つ』

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る―

川上未映子がインタビュアーで村上春樹がインタビュイーの対談集というかインタビュー集。全4回に渡って、徹底的にインタビューしている。時期的に『騎士団長殺し』に関する記述が多いので、ネタバレを避けるためにも『騎士団長殺し』は読んでおいた方が良いだろう。
incubator.hatenablog.com
incubator.hatenablog.com

わたしにとってのポイント(興味深かった点)は4つ。

  1. 本当か嘘かわからないが、村上春樹は過去の本でも語っているとおり、いわゆる文学理論みたいなものはほとんど使わずに物語を書いている。
  2. これも本当か嘘かわからないが、村上春樹は過去の本の内容を病的なほどに忘れているというのが過去の対談集などでは明らかなのだが、本書でもやはり異常なほど過去の作品のことを覚えていない。というか、『騎士団長殺し』の秋川まりえの名前すら覚えていなかった。
  3. 過去の対談集だか何だかでも出てきたのだが、村上春樹は徹底的に「文体」にフォーカスする作家である。そして本書でも村上春樹は文体の重要性を繰り返し語っている。そして興味深いことに、川上未映子も文体に意識的な作家なのだが、『乳と卵』があまりにも文体で騒がれた、しかもそれが女性の身体性から出て来た文体であることを強調されすぎて、次作の『ヘブン』では文体を変更したらしい。なお村上春樹は、『乳と卵』は文体しか語るところがない、しかしそれは素晴らしい達成だと評している。
  4. 川上未映子はフェミニストである。少なくともそう自称した。

村上春樹『騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編』

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

村上春樹の最新長編。かなりの長編なのだが、一気に読んでしまった。

以降ネタバレ(核心というほどではないにせよ)。

この『騎士団長殺し』という作品は、昨日も書いたが、物語の仕掛けというか構造がこれまでの作品とよく似ているように思う。例えば、自分に都合の良いガールフレンドが出てくることや、得体の知れない存在が出てくることや、地下に潜って得体の知れない世界に行くこと。雨田の息子は何となく「鼠」や灰田を彷彿とさせる。しかし、では免色捗は一体どうなのかと問われると、あまりぴったり来るものがいない。現実離れした優雅な暮らしはギャツビーを思い出すが、彼はこれまでのどの登場人物とも違う複雑な内面を持っている。ある部分では、極めて禍々しいとさえ言えるだろう。しかし主人公に対して敵対しているかと言うと、そういうわけでもない。そして傍目には全てを手に入れているようにすら見える免色さんは、主人公の自由さを羨んでいる。何と言っても彼が圧倒的に気になる人物だな。

村上春樹『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

村上春樹の最新長編。

わたしは貪るように読んでしまったのだが、Amazonではとにかく評判が悪い。トップレビューの幾つかしか読んでいないのだが、不評の理由は大きく2つあるようだ。

ひとつは、最近の村上春樹の文体が以前と少し変わったこと。正確には「以前」というと語弊があって、村上春樹はずっと文体を鍛え続けているし、特に短編や短めの長編では意図的に文体を変えているのだが、それはそれとして、最近はきゅうりのようにクールといった春樹節の言い回しは減っている気がする。とにかくフラットなのだ。ただただ読みやすい。でもこれが、村上春樹のキザな感じの文体を気に入っていた人には随分と不評なのである。わたしはそんなに悪くないと思うんだけどね。物語に集中できるから。

もうひとつは、物語の仕掛けというか構造がよく似ていること。自分に都合の良いガールフレンドが出てくることや、得体の知れない存在が出てくることや、地下に潜って得体の知れない世界に行くこと。ただ、村上春樹が「この世ならざる世界」や「この世ならざる存在」を何度も何度も執拗に書き続けるのは何故なのかと考えていくと、同じ構造だから飽きたという評価は(少なくともわたしには)ちょっと違うような気がする。新しいストーリーが読みたいなら社会派ミステリでも読んでおけば良い。

具体的な感想は下巻で。