佐藤秀峰『Stand by me 描クえもん』1巻

Stand by me 描クえもん 1巻

Stand by me 描クえもん 1巻

未来から来た自分だと名乗るハゲでデブなおっさんが「漫画家を辞めろ。そのまま続けたら自分みたいな腐った親父になっちまうぞ」と忠告する、という冒頭から始まる作品。

漫画家になれば報われると信じて辛い現実を何とか乗り切っている主人公は、いきなり目の前に現れた変なおっさんの言うことなど当然聞き入れたりはしない。しかしこの変なおっさんは、自分しか知らないようなことを言ってのけたり、本当に未来を知っているとしか言いようのない精度で言い当てたりする。そしてそのまま居候するのである。全体的に陰鬱だが、その焦燥感を持ちながらも何とか現実を変えてやろうともがくという構図は、作者の代表作『ブラックジャックによろしく』に通ずるところがある。

なお、主人公の行動によって、おっさんの禿頭に少しだけ毛が生えるなど、未来が変わる様が暗示されている。主人公が、おっさんの意見を聞いたり聞かなかったりしながら現実を変えていき、その変化がおっさんの体に表れる……という感じになるんだろうな。

白井カイウ+出水ぽすか『約束のネバーランド』1〜3巻

グレイス=フィールドハウスと呼ばれる孤児院で生活する主人公たち。彼らには親はないが、自然あふれる広大な孤児院の中で、他の孤児たちと協力しあって暮らす。孤児院のシスターである「ママ」と慕われるイザベラも優しい。そして6〜12歳の間に里親を見つけ、送り届ける。ここに暮らす子供たちは皆、孤児とはいえ、何不自由なく、幸せを感じながら生きている。

それが虚飾にまみれた日常だということに気づくまでは。

ある日、里親が見つかり孤児院を出ることになった仲間の忘れ物(ぬいぐるみである)を届けようとした主人公は、仲間が「鬼」のような異形の怪物によって「食肉」として出荷される場面を見ることで、唐突に、これまでの生活の全てが嘘だったことを知るのである。

そして主人公たちは、孤児院が実際には「監獄」であり、「人間飼育場」であることを知る。外は危険だから外に出るなと言われた孤児院の周囲は高い壁に覆われていること。そして自分たちの体には発信機のようなものがつけられ、どこにいても見つかってしまうこと。そしてシスターは自分たちの味方ではなく、自分たちを出荷する鬼の側であること。こうした自分たちの置かれた状況を知ってしまった主人公たちは、脱獄の準備を始める……というのがアウトラインである。

第1話から引きが強く、心理戦としてもなかなか面白い。おすすめ。

石田スイ『東京喰種トーキョーグール:re』10巻

東京喰種トーキョーグール:re 10 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

東京喰種トーキョーグール:re 10 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

このところあまりにも人が死に過ぎるので、久々に1巻から通しで(といっても:「re」からだが)読んでみた。

涙が、溢れた……。

相変わらずハチャメチャにストーリーが進み、とにかく人間や喰種が死にまくっているだけのように思えるが、改めて読むと皆その時と場所で必死に生きているに過ぎない。この世界に善人や悪人というものが果たして存在するのだろうか? 思いの「強さ」と「歪み」はある。一部の人の心には善を為したいという心も。しかしそれ以外にあるのは思いの連鎖だけである。そしてその思いの多くは「恨み」なのだ。なんと悲しい世界だろうか。

さて、当初の主要キャラクターが多くが死んでしまい、CGCも組織としてはもはや「ギリギリ」というところである。そろそろエンディングが近づいてきたように思うが、ここまで先の読めない物語は珍しい。どこに着地するのか? 主人公が望む、人間と喰種がわかりあえる世界……まさかね? 本当に見られるなら、わたしも見てみたい。

いがらしみきお『ぼのぼのs』2巻

ぼのぼのs 2 恋するぼのぼの (バンブーコミックス)

ぼのぼのs 2 恋するぼのぼの (バンブーコミックス)

4コマ漫画ではなくストーリー漫画の「ぼのぼの」を楽しもうという本。今回は、ぼのぼのの「恋」を描いているのだが、ぼのぼのに恋愛じみた話はほとんど(全く?)出てこなかったので、その意味では新鮮。

ただ以前も書いたように、『ぼのぼの』は元々4コマではなく8コマでひとつのネタになっているし、8コマに1回必ずオチがあるかと言えばそんなこともなく、ゆるゆるとストーリー漫画みたいなことを4コマ漫画のフォーマットでやっていたりする。だからストーリー漫画になったからと言ってそれほど違和感はないし、逆にそれほどのプラスの変化も感じない。まあぼのぼのが好きな人は是非、というぐらいだな。

いがらしみきお『ぼのちゃん』2巻

ぼのちゃん(2)

ぼのちゃん(2)

ぼのぼのが産まれたばかりの頃を描いた絵本。

まさか2巻が出るとは!

まあぼのぼのたちが今のレベルまで成長するにはかなりの年月が必要だったはずで、2巻を描くことも可能ではあったが………。

ということは3巻もある?

いがらしみきお『ぼのぼの』42巻

ぼのぼの(42) (バンブーコミックス 4コマセレクション)

ぼのぼの(42) (バンブーコミックス 4コマセレクション)

森に住む動物たちを描いた奇才・いがらしみきおの四コマ漫画。Wikipedia曰く「不条理ギャグと哲学とほのぼのが融合した、独特の作風」とのことだが、言い得て妙である。タイトルであり主人公(ラッコ)の名前でもある「ぼのぼの」は当然「ほのぼの」から来ているが、単なる「ほのぼの」だけでない深みがある。

42巻も相変わらずの面白さで、例えば42巻ではシマリスのお姉ちゃんの赤ちゃんが出て来る。ぼのぼのたちはシンプルなので、何かが生まれたら、生まれた意味や、生まれたことの影響を考えてしまう。しかし難しい言葉ではない。ゆっくりと静かに、内面に潜り込むような思考である。何とも言えない作品だ。

石塚真一『BLUE GIANT SUPREME』1巻

BLUE GIANT SUPREME(1) (ビッグコミックススペシャル)

BLUE GIANT SUPREME(1) (ビッグコミックススペシャル)

『岳』という山岳漫画でブレイクした石塚真一によるジャズ漫画。元々は『BLUE GIANT』というタイトルで連載されていたのだが、極めて衝撃的な終わり方をして、心機一転、新しいタイトルで連載されている。

描写自体は相変わらず丁寧なのだが、『BLUE GIANT』のラストを読んだあととなっては、本作に興奮することはしばらくできそうにない。いや、永遠にできないかもな。それぐらい『BLUE GIANT』の終わり方が酷い。

石塚真一『BLUE GIANT』10巻

BLUE GIANT(10) (ビッグコミックス)

BLUE GIANT(10) (ビッグコミックス)

「『岳』という山岳漫画でブレイクした石塚真一によるジャズ漫画。

凄く盛り上がっていたのに10巻で完結して、しかも続編の『BLUE GIANT SUPREME』が同時発売されるという展開をAmazonの発売予定で知り、何となく普通ではない感覚を抱いていた。

しかし、いざ読んでみて驚愕。

これはあんまりなんじゃないか。

何の必然性も感じられない。

いや、百歩譲って人生とは必然性のないドラマなんだよとうそぶいたとしよう。しかし、ここまでの展開で読者をこんな形で裏切って良いものなのか。読者を驚かせ、主人公に刺激を与えるためならば、脇役は何をされても良いのか。これは読者への裏切りというよりも登場人物や作品そのものへの裏切りと言っても良い。

非常にがっかりしてしまったというのが本音。

(買ってしまった手前)続編の『BLUE GIANT SUPREME』も読んでみたが、正直もうこれまでと同じ興奮は味わえない。結局のところ、作者である石塚真一の匙加減なんだなーと思ってしまったから。もちろんどんな物語も作り手の匙加減である。しかし物語というのは作者の手を離れてキャラが自由自在に動いているんじゃないかと思わせるところに面白さがあるし、実際、作者がそのように発言するようなプロットこそ面白い。予想を超えてくるからである。一方、本作の「これ」は、確かに予想は超えてきた。超えてきたんだが、作者の作為しか感じない。

繰り返すが、なんか残念だな。

余談

Amazonを見たら、ほとんど炎上というぐらいに低評価のコメントで溢れていた。みんな思わず書いちゃったんだろうな。

恵三朗+草水敏『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』8巻

フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(8) (アフタヌーンコミックス)

フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(8) (アフタヌーンコミックス)

残された者と病理というテーマで、なかなか骨太のエピソードが読めたかなと思う。医療モノのドラマや漫画は名作が多い。医療ドラマは人間ドラマである。安易だが、胸を打つ。

芝村裕吏+キムラダイスケ『マージナル・オペレーション』8巻

マージナル・オペレーション(8) (アフタヌーンコミックス)

マージナル・オペレーション(8) (アフタヌーンコミックス)

ヒロイン枠(?)の女の子から露骨な行為を寄せられているのに、それを取り繕うとする主人公のアタフタしたところを楽しむ……という点については正直ちょっと飽きてきた。しかし本筋のストーリーの方はどんどん面白くなっている。同志だと思っていた男と、こういう形で「因縁」が出てくるかー。

ツジトモ『GIANT KILLING』43巻

GIANT KILLING(43) (モーニングコミックス)

GIANT KILLING(43) (モーニングコミックス)

東京ダービーが開幕したが、ライバルチームの10番が格好良すぎて、正直、完全に「食われている」状態。


ここからETUがどうやって挽回するかだよなー。

カルロ・ゼン+東條チカ『幼女戦記』4巻

幼女戦記(4)<幼女戦記> (角川コミックス・エース)

幼女戦記(4)<幼女戦記> (角川コミックス・エース)

タイトル重視の出オチ漫画だと思いきや、主人公と周囲のすれ違いを軸にした笑いはますます冴え渡り、とはいえ世界観のシリアスさも申し分なく。

はっきり言って面白すぎる。

山田胡瓜『AIの遺電子』1〜5巻

主人公はヒューマノイドが実用化され人間と同じように生きる近未来における、人工知能の専門医。2016年現在、知能や知性を有したと客観的に言える存在は人間しかいないだろう。しかし本作においては、人間、人間と同じような心と権利を有して生きているヒューマノイド、人間やヒューマノイドに仕えるロボット、ヒューマノイドやロボットを生み出した超高度AI、という4つの知的存在がいる、という前提である。

そんな世界観で「SF医療オムニバス物語」が展開される。

と言っても、ブラック・ジャックよりはもっと進んだ世の中で、マトリックスほど厭世的ではなく、攻殻機動隊ほどシャープで暴力的な世界観ではない。喩えるなら、星新一の世界観をもう少しウェットにしたような。

いずれにせよ、物凄く面白い作品。大発見である。

しかし、1話完結でよくネタが持つなあ。1話完結にこだわらず、もう少し長いエピソードにしても良いのに。

漆原友紀+熊倉隆敏+吉田基已+芦奈野ひとし+今井哲也+豊田徹也『蟲師 外譚集』

蟲師 外譚集 (アフタヌーンコミックス)

蟲師 外譚集 (アフタヌーンコミックス)

  • 作者: 漆原友紀,芦奈野ひとし,今井哲也,熊倉隆敏,豊田徹也,吉田基已
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/05/15
  • メディア: Kindle版
  • この商品を含むブログを見る
いわゆるトリビュート・アルバム。

蟲師の世界観が好きな5人の漫画家、『もっけ』の熊倉隆敏、『夏の前日』の吉田基已、『ヨコハマ買い出し紀行』の芦奈野ひとし、『アリスと蔵六』の今井哲也、『アンダーカレント』の豊田徹也の5人がそれぞれの作風を活かして『蟲師』を描いている。一読したが、熊倉隆敏の作品がやはり直接的なオマージュになっていると思う。『蟲師』と『もっけ』は同じ時期に連載されていたし、どちらもヒトならざるモノをモチーフとした漫画だったので、共鳴し合うとことがあるのかもしれんね。

高浜寛『ニュクスの角灯』2巻

ニュクスの角灯  (2)

ニュクスの角灯 (2)

わたしが今、最も楽しみにしている漫画のひとつである。

まあ「最も楽しみにしている漫画」自体がそこそこあるのだが、本作はその中でも白眉と言って良いだろう。

海外貿易で利益を得る商人が多く現れ始めた明治初期の長崎を舞台に、変わり者の店主がいる「蛮」という道具屋で働くことになった(一見して何の取り柄もない)大人しい少女・美世が、不思議な魅力を持つ人々との付き合いや、店主がパリ万博で仕入れてきた最先端の品々(ミルクチョコレート、ミシン、ドレス、幻灯機……)に触れ、人間的成長を果たす……といったアウトライン。明治・大正時代の日本文化と西欧文化の格好良い混じり具合など、本作の中には、とにかく何とも言えない高揚感がある。時代も要の東西も全く違うんだけど、森薫『エマ』の番外編で、エマの先生(ケリー)が夫と共にロンドン万国博覧会に行って世界の広さと美しさに圧倒されるエピソードがあるが、それを読んでいる時の気持ちに似ている。

さて2巻では、謎めいた道具屋店主への恋心のようなものや失恋のようなものも出てきて、物語がまた転がり始めたような気もする。続きが楽しみ……ということで、ふと検索すると3巻が発売済みだった。最近はAmazon中心であまり本屋に行っていないから、楽しみにしている本を発売日に買っていないことが増えたなあ。