小林よしのり『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 台湾論』

本書は一応「漫画」だが、本屋でも一般書と同じ扱いだし、本書の性質を考慮して1冊と数えることにした。とりあえず、内容に入る前に蛇足ながらも注意書きを。それは(小林よしのりの著作を読んだことのある人ならわかると思うが)扇動的なロジックに慣れていない人は特に注意して読まれた方が良いと思う、ということだ。小林よしのりの本を読むと、得てして、まるで洗脳されたが如く盲目的に惹かれたり、感情的に全てを拒絶したりする。肯定的に受容するにしろ、そうでないにしろ、ある程度の距離をとって読むよう意識するべきであろう。小林よしのりはデリケートな問題に踏み込んでいるだけに、自戒も込めて、注意を促した上で内容について記したい。

俺の力では本書を一言で説明するのは難しいが、小林よしのりが最近こだわっている「個」と「公」の議論を踏まえて書かれていることは確かだ。台湾を訪れた小林よしのりが、台湾に残る日本の精神を発見し、歴史的・地理的・精神的に日本に近い台湾の「国生み」をしっかりと見つめていかなければならないと感じる――といった内容だろうか。小林よしのりのバイアスが大量にかかっていることは否めないが、台湾の歴史を知る機会や日本が台湾に対して“本当は”何を行ってきたのかを知る機会など、俺らにはほとんどない。俺は興味深く読んだ。

繰り返すが、「日本が台湾に対して何をやってきたか」ということの詳細は、今まであまり知られていない。日本が台湾を統治したという負の側面も、それほど語られてはいないとは思う。しかし、それ以上に、日本が台湾の教育水準を爆発的に向上させたこと、そのことによって中国に見捨てられた台湾が初めて近代化したこと、実は日本国内よりも先に台湾の下水道(だったと思う)を整備させたこと、そういった日本の貢献的側面はほとんど語られることはない。というか語ることがタブーですらある。それを語ることは日本の戦争責任をないがしろにすると一部では思われているらしい。しかし歴史は二面性を持つ。そりゃあ統治したといえば聞こえは悪いし、実際に統治していてそれは悪いことなんだろうが、だからといって「統治していたのに、日本の台湾に対する貢献を書くのは、侵略を正当化するファシズムだ」とするのは明らかに論理的矛盾だ。間違っている。

本当はこう言うべきなのだと思う。「日本が侵略をしたのは事実だ。でも台湾の近代化に貢献したのも事実なのだ」と。この言い方が誰かの気に触るならば「日本は台湾の近代化に事実として貢献した。でも侵略をしたのだ」と言い換えても構わない。どちらでも事実としては同じことだし、実際、現在の台湾の教科書では日本の台湾統治の両方の側面をちゃんと記述している。それが正しい物事の捉え方というものではないだろうか? 俺は、俺の周囲やネットで言われているほど本書の主張が的外れだとはあまり思わない。たとえ小林よしのりの思想的なスタンスが多分に偏っており、その偏りが本書に顕著に反映されているとしても、である。繰り返すが、戦時下における日本の貢献的側面を語ることは、本当に日本の戦争責任をないがしろにすることであろうか?