小谷野敦『バカのための読書術』

この種の本にありがちなことではあるが、「バカのための」と書いてあるくせに著者は全然バカではない。東大文学部卒→東大大学院博士課程終了→ブリティッシュコロンビア大学学術博士→明治大学講師という、むしろ秀才の代名詞たる経歴である。そして著者は確かに「バカのための」と書いてはいるが、「バカの味方」になるつもりはさらさらないらしい。ただ、バカにも色々と種類はあって、難解な哲学がわからないなどのバカ(俺か?)には同情するし、書く側にも問題があるし、著者自身その種のバカである可能性は否定できないが、無知なバカと怠惰なバカは嫌悪している、と書いている。「バカでも事実(歴史)を基に考えることで頭の良い奴にも負けないことが可能だ」という著者なりの考え方から来ているのだが、うひぃ、かなり偉そうだよぉ(笑)

とりあえずコイツは自分のことを絶対バカだと思ってないネ!(笑)

もし一部分だけを読むなら、終章を読むことをオススメする。「意見」によって「事実」を捩じ曲げてはならない、という至極真っ当な主張なのだが、これを理解できない人が多すぎる。本書にも「日本は戦争で悪いことをした」という「意見」を言いたいがために「日本軍は南京大虐殺で30万人を殺した」という「事実でない嘘」を言うのはおかしい、と書いてある。全くその通り。「本当ならばナニを言っても良いのか」という問いは時にはノーだとすべき場面もあるかもしれないが、少なくとも嘘を事実として語るのはどんな場面でも許されない。

他には、例えば「読んではいけない本ブックガイド」で、折口信夫を「ほとんどが折口の想像と妄想の産物」と言い、中沢新一を「いんちき」と断じ、小林秀雄を「日本の表論文を非論理的にした最大の元凶」とぶった切るあたりは(賛同できるかは別として)呉智英のような過激で多少ピエロな痛快さに満ちている。そういった意味では笑える。