洋泉社MOOK『この新書がすごい!』

「定番」あるいは「定番となり得る」本を選び出すときの基準は、実は非常に難しい。粗悪なものや使えないものを外すのは当然としても、読み手が何を求めて何を構築しようとするかにおいて、本当に「使える」本とは個人によって千差万別だからである。

例えば、非常に内容に優れ長く読まれている哲学書のベストセラーがあったとしよう。それはまさしく万人が認める「定番」かもしれない。だがその本が専門性の高い「哲学」の本で、読み手が専門用語を使わずに本質を語った「てつがく」の本を求めていたならば、その読み手にとってその本は「使える」本とはならないのだ。それなら「とにかく良質のものなら選ぶ」と割り切るのも確かに効果的であろう。しかし本書はそうしたスタンスをあえて退け、「自分」を中心に据えたブックガイドを作りたいと浅羽通明は述べる。つまり本書は、「自分」とは何か、そしてその本あるいはその学問領域やテーマ・知識が「自分」とどう関わるのか、それが以前よりもわかるように配置されたブックガイドを目指している。

本書は浅羽通明が中心になって作り、やたら戦闘的な民俗学者の大月隆寛や、同じく戦闘的で反人権主義者の呉智英が執筆しているので、どうしても気になって買ってしまった。とはいえ、所詮はブックガイド。どんなに選び手が手を尽くして極上の本を選ぼうとも、読み手が本をどのように受容し、そこからどう「自分」を構築していくかで、ブックガイドの価値は変わる。その点だけは忘れてはならないだろう。