三島由紀夫『若きサムライのために』

本書は、三島が自衛隊駐屯地で割腹自殺を遂げる1年前に刊行されたらしい。然るに、あくまでも結果論的にではあるが、本書は確かに「次代を担う若者」に対する三島の遺言的な性質を持っていそうである。例えば、上の引用は軟弱な日本人に対して心身を鍛え直せと叫んでいるわけだが、これ以外にも本書は日本人への熱いメッセージに溢れている。帯の「日本人よ、高貴なる野蛮人たれ!」という過激なコピーなどは特に目をひく。精神的に肉体的にも奴隷にだけはなりたくないよなあ……。

ただ、本書は三島が自殺を遂げた1970年時点での「次代を担う若者」に対して送ったメッセージであるから、既に風化してしまった話題も中にはある。特に後半部分の安保問題や全共闘に関する話は、もう賞味期限が切れているという感じが否めない。そこらへんは興味が持てないかもしれないが、逆に興味深いのは、1970年時点での「次代を担う若者」が三島の遺言をどう捉え、日本をどう担ってきたか、ということであろう。しかし、それを考えると……。

最後に、三島のメッセージを引用しておきたい。

文字によつても言説によつても、もちろん精神は“表現”されうる。表現されうるけれども、最終的には“証明”されない。従つて、精神といふものは、文字の表現だけでは足りない。
従つて、精神の存在証明のためには、行為が要り、行為のためには肉体が要る。かるがゆゑに、肉体を鍛へなければならない、といふのが、私の基本的考へである。