谷岡一郎『「社会調査」のウソ――リサーチ・リテラシーのすすめ』

よく俺らはインタビューやアンケートなどの「社会調査」にお目にかかるけれど、それらのほとんどがただのゴミであり、悪意や無知といった様々な理由により意識的・無意識的にゴミは作られ、またゴミは引用されたり参考されたりして、さらに増殖する――そう著者は主張する。

本書では多くの社会調査の実名で批判されている。その代わり反論も自由で、もし著者の方が間違っていたら謝罪するらしい。かなりの自信だが、それもうなずける話だ。確かに「社会調査」には文字通りただのゴミでしかないものがとても多いし、いかに俺らが「社会調査」という名のゴミに騙されているのかが、本書を読むとよくわかる。しかも、無知やずさんな調査によるただのゴミも多い一方で、情報操作や印象操作のなされた悪意あるゴミも非常に多い。データの解釈ひとつで記事の印象ってここまで変わるものなのか、と改めて驚かされる。

では、本書で引用されている豊富なゴミの中から1つだけゴミを引用してみよう。いわゆるゴミクイズである。余興ですな。どこがどうゴミなのかを考えてくれたら良いが、今から引用するのは本書の中で俺が最も簡単に見破れたゴミである。これがわからなかった人は確実に「社会調査」という名のゴミに騙されている人だから、本書を購入してゴミの種類とゴミを作らない方法論について学び、さらにゴミの見分け方について学び、ゴミに騙されずに正しい情報を見抜く力を身につけよう……と偉そうに書いているが、俺も他の問題はほとんどわからなかった。まあ、気楽にやってみよう、気楽に。

「ダイエット食品は減量に役立つか」ダイエット食品の効用に疑問を持ったマリエ・アンゾ博士は、ランダムに選んだ男女1000人ずつ、計2000人に一日に食べるダイエット食品の回数と量を尋ねてみた。ついでに各自の肥満度も計測してみた。その結果次のことが判明した。
a)ダイエット食品を食べる回数が多ければ多いほど、肥満度が高い。
b)ダイエット食品を食べる量が多ければ多いほど、肥満度が高い。
結論としてマリエ・アンゾ博士は、ダイエット食品はあまり効果がないばかりか、逆の効果が観察されると発表した。さて、この調査はどこがどうおかしいか。最低三十秒ほど考えてもらいたい。

さて、解答は、ぶっちゃけて言えば「デブじゃない奴は一般的にダイエット食品なんて食わねぇんだよオラ!」ってことです。これが解答。つまり、ダイエット食品を熱心に食べる人は単純に“太っている人”で、単純に“痩せている人”はダイエット食品を熱心に食べる意味も必要もないから、量も回数も痩せている人が太っている人に比べて少ないのは当たり前である。よって、この社会調査では「ダイエット食品の摂取量や摂取回数」と「肥満度」の相関関係は認められないし、「ダイエット食品の効果」もわからない、ということです。

確かに解答を知ってしまえば「なあんだ」と思うかもしれない。けれど、このクイズが示す問題点は「これが『クイズ』じゃなければ果たして疑問を抱いただろうか?」ということである。そりゃあ「クイズ」だと言われたら間違いを必死に考えるけれども、偉そうな学者や博士や研究団体が調べて大手のテレビや新聞が報道していたら、疑問を抱かず受容してしまうことは多いと思う。この例だって、実際にテレビや新聞は何の吟味もせずに、このようなゴミを垂れ流していたわけだし。

これは簡単な例だったかもしれない。けれど、もっと難しいゴミは本書の中にも数多くある。もっと気づきにくかったり、あるいはゴミの作成者が悪意や特定の意図を持ってテクニカルにゴミを作成していたりしたら、何の用意もない情報の受け手が間違いを発見することは難しい。だからこそ、情報の受け手が情報に対する色々な力を身につけることはとても大事だと俺は思う。社会調査に興味がある人や、より深くリサーチ・リテラシーについて知りたい人は、ぜひ本書を読んでみてほしい。リサーチ・リテラシーの重要性に改めて気づかされる、必読の1冊。