村上龍+はまのゆか『あの金で何が買えたか』

何千億円もの金がポンポン飛び交うニュースを毎日のように聞かされても、確かに本書の言う通り天文学的大金をリアルにイメージするのは困難だ。俺は「100億円をイメージしろ」と言われても、かろうじて「1億円の100個分」としかイメージできない。それで次に1億円をイメージしようとしても「1億円は、諭吉が……えーっと、何人分だ!?」って感じで、リアリティからは程遠い。毎月のように携帯が止められる金銭的末端階級な俺でなくても、一般大衆には大金のリアルなイメージなど出来はしない。そして俺らの知らないところで税金は無駄に使われ続ける。この悪循環を止めるには、俺らが金額の大きさをリアルにイメージできるようになることが必要だ、と村上龍は述べている。

適当にページを開くと、例えば第一勧業銀行に投入した公的資金9000億円があれば、スフィンクスの修復が出来て、途上国の子供すべてに基礎教育を受けさせることが出来て、アフリカ象復興プロジェクトを立ち上げることが出来て、さらに572億円の釣りが戻ってくるらしい。また大和銀行に投入した公的資金4080億円があれば、パレスチナ復興の総費用を負担することが出来て、最新の点字図書館を全都道府県に設置することが出来て、世界中の子供を(栄養失調による)失明から守ることが出来て、さらに272億円の釣りが戻ってくるらしい。

こういう企画を「置き換えることに何の意味があるんだ?」と一蹴することも可能である。けれど別の事象に置き換えることで大金をイメージすることは出来るようになるし、それは村上龍の言うように意外と大事なことだと本書を読んで俺は思った。政府がポンポン投入した金でここまでのことが出来た、それを思うと愕然としてしまう。

それにしても村上龍が本書を「絵本」にしたのは非常に示唆的だなあ。所詮は子供だましかもしれないし、バカバカしいと言えばバカバカしい。でも大いにイメージを育む佳品だと思う。俺は好きだな。気楽に眺めよう。