利根川進『私の脳科学講義』

利根川進と聞いてもピンと来ない人がいるかもしれないが、利根川進はノーベル賞を受賞している人だから、けっこう有名な研究者である。本書では、利根川進の自伝的な内容を含みつつ、自らの研究成果や脳科学の現状、そして自らの切り開いた(あるいは切り開くであろう)脳科学の新たな可能性が書かれている。特に第4章の「科学者とは、科学研究とは」には非常に刺激を受けた。少し引用しておきたい。

かならずしも科学者だけの話ではなくて、わたしは、どうしてみんなあんなにいろんなことを同時にやりたがるんだろうと、不思議でしょうがないんです。あることを成し遂げるためには、いろんなほかのことを切り捨てないとだめなんですよ。ところが人間は、なかなか切り捨てる決心ができない。とくに、もうすでにやっていて、少し成果があがっているものを、なかなか切り捨てることができない。やってみて成功すればわかる。あれを切り捨てて、これをやってよかったなとわかる。それは、想像力が足りないんですね。(P129)

人生はおもしろく生きないといけないという価値観を至上において、リスクを負いながら自分の道を切り開いていく。そういう人が、何かをやり遂げると思います。(P146)

面白い1冊だ。脳に興味のある人はもちろんだが、むしろ覚悟を決めて何かに挑戦しようと思っている人や普通の人が読むべき1冊。