木村剛『日本資本主義の哲学』

日銀で主要局を歴任した後、金融と企業財務に特化したコンサルティング会社を経営し、中小企業の融資に特化した新銀行を設立しようするなど、いま金融業界で最も注目されている人の1人だろう。俺も注目していたが、図書館の本がずっと貸出中で、なかなか借りられなかった。みんな注目してるんだな。

文化的土壌を考えても、様々なリスクに対するコストを考えても、共同体的な日本的経営で巧く行くなら、その方が良い。しかし、日本資本主義は瓦解してしまい、旧き良き日本資本主義に立ち戻ることは状況が許さない。また現在は荒々しい米国資本主義の方が機能している。だから、日本資本主義と米国資本主義の良いところを兼ね合わせた、資本主義の新たな「ニッポン・スタンダード」を構築する必要がある――というのが本書のアウトラインだろうか。その新たな「ニッポン・スタンダード」とは、「支配」ではなく「感謝」でコーポレート・ガバナンスを捉え、「服従」ではなく「自律」で組織を組み立て、「管理」ではなく「互助」の精神を尊び、そしてそれらを巧く機能させるためにフェアな土壌を設定する――というものだ。「感謝」「自律」「互助」というキーワードは全て米国資本主義の悪い側面に対するアンチテーゼとして挙げられているのだから、よく言われる「アメリカ万歳論者」だとはあまり思わなかった。

(特に第3章などが)時に冗長で退屈なのは残念だが、非常にアツく、心を揺さぶられるものがある。まだ金融や経済・企業財務の知識に明るくないので、木村剛の言うことを完全に理解できたとは思えないが、平易な文章だし、わりと面白いと思った。