黒田硫黄『映画に毛が3本!』

「漫画でしか表現し得ないもの」というものがあるとして、黒田硫黄は現在そういった地平の最先端に立っている漫画家の1人だと思う。綿密な構図やコマ割りに、自然で自在な登場人物の表情。筆のようなもので描かれた描線は香気に溢れ、その陰影は白黒なのに恐ろしく鮮やかである。そしてチカラを持った言葉。明らかに現在の漫画界を牽引している描き手の1人で、俺は全ての単行本を持っている。「もはや好きってレベルじゃないね」とは誰の言葉だったか?

まあ、そんな黒田硫黄が映画をめぐるエッセイを絵と文で綴ったのが本書である。巻末の解説を読む限りでは、黒田硫黄はどうやら大学で映画ゼミだったらしく、黒田硫黄の漫画の構図は映画を観ることで鍛えられたのかなあ、とか思いながら読んだ。多少ヒネたユーモア溢れる独特の視点から語られるので、その映画を観ていなくても楽しめる。いやはや、それにしても、「シュリ」をMMRネタで押し切り、「ガメラ3」を前田愛のエロティシズムの一点で評価するとは。これを読むと全く興味のない「ガメラ3」まで観てみたくなる。最高。しかも語り口自体も楽しめる。もちろん絵も楽しめる。つまり楽しすぎて泣ける。もう素晴らしすぎて必読。