NHKビジネス塾編集委員会『NHKビジネス塾の教科書V』

木村剛『竹中プランのすべて――金融再生プログラムの真実』で詳しく述べられていた銀行の歪みの一端が本書でも述べられている。

例えば、ある中小企業に、銀行が「こういうチャンスはもうないから」と金を借りることを熱心に勧めてきた。というのも、政府が銀行の貸し渋り対策のため特別保証制度というものを設けたからだ。特別保証制度というものは、返済不能になった場合に政府が代わりに保証してくれるという制度である。したがって、その融資は銀行にとっては回収が100%保証された安全なものであり、銀行はリスクなく融資を行えるのだ。

当時その企業の資金は間に合っていたのだが、熱心に勧めることもあり、その制度を利用して5000万円ほど融資してもらうことにした。しかし、銀行は突然その金利を倍にすることを要請してきたのだ。金利引き上げに対して銀行から企業に対して何の説明もなかった。しかし応じざるを得ない。なぜなら、あまり銀行に対して事を荒立てると、借りていた金額を一度に返済することを迫ってくる恐れがあるからだ。いわゆる「貸し剥がし」である。そんなことをされては、中小企業はいっぺんに潰れてしまう。

このケースは、少し考えると非常に変な話なのである。融資の金利とは、簡単に言うと、「資金調達コスト」や「経費」や「銀行の利益」に、融資先企業に資金を返済してもらえなくなるリスク、つまり「信用力」に応じた金額を加えて設定する。しかし、このケースは、政府が保証することで返済が100%保証されたリスクのない融資なのである。それなのに説明もなくいきなり金利が2倍になるなんて、融資先企業は納得できるはずもない。しかし、前述したように、貸し剥がしが怖いから結局は応じざるを得ないのである。

信用つきの融資の金利が、なぜ上がるのか。NHKの取材に対して、銀行側は書面で「金利はリスクだけでなく事務経費や貸出期間等で決まり、そのコストが増えた分も金利に上乗せする」と回答した。しかし、この回答は今回のケースに当てはまらないため、さらに取材をしたが、「守秘義務がありこれ以上は答えられない」と返答してきたそうだ。結局これは銀行側の経営に問題があり、金利を上げて利益を上乗せしようとしているのだろう。

しかし銀行は利益追求だけでなく社会基盤を支えるためにも存在しているのだ。企業に何の説明もなく一方的に金利を2倍にすることなど許されて良いものだろうか。しかも日本の中小企業向けの融資は、通常、個人資産や連帯保証人など十分すぎるほどの担保を取っている。そのため失敗した人は再び戦おうとする財力も気力も根こそぎ奪われて、それこそ夜逃げするか自殺するしかないような状況に奪われてしまうのだ(この問題は前掲の『竹中プランのすべて――金融再生プログラムの真実』に詳しい)。

思わず銀行の話に熱が入ってしまったが、今回は、未利用の特許を上手に活かした新事業への取り組みや、大学初のベンチャーとして上場を果たした企業の話なども興味深かった。本書に限らず本シリーズは全体的に興味深い話に満ちているので、ぜひ読んでみてほしい。必読。