村上春樹『やがて哀しき外国語』

これまたインキュベ日記が始まる前に読んだことのある本。村上春樹は(プリンストン大学の客員研究員として)アメリカのプリンストンに91年から2年間ほど滞在していたのだが、その時期の話を書いた滞在記である。時期的には『遠い太鼓』で書かれた後の話になろうか。ヨーロッパでは数ヶ月単位でどんどん色んなところに移り住んでいたため、良くも悪くも『遠い太鼓』は第一印象や第二印象を書くことしかできなかったが、本書では、プリンストンに住むことで見えてきたアメリカの第三印象や第四印象を、じっくりと腰を据えて書いてみたい――というのが本書の動機のようである。中で暮らしてみないとわからないアメリカの矛盾や魅力がナチュラルな言葉で暴かれるというのは、なかなか読んでいて興味深いものだ。