大前研一『中国シフト』

大前研一の「中国三部作」の第2弾。今回は、いかにして日本企業が中国の爆発的な経済成長を利用して、中国をビジネスモデルに取り込んで発展すれば良いか、ということが主題的に論じられている。

基本的には、ユニクロモデルをさらに推し進めた、コスト構造を根本的に変革する生産体制を作ることに尽きる、と大前研一は述べる。企業の体力勝負を思わせる、安かろう悪かろうのジリ貧的な値下げではなく、良いもの(これは企業や商品によって基準や構成要素は変わるだろう)をより安く作るにはどうすれば良いか、ということが主眼である。つまり、日本でしか作れないもの(技術的な高付加価値商品や日本で作られたことをウリにした食料品など)や日本で作った方が効率の良いものは日本で作れば良いし、日本以外で作った方が良いものは、大胆に国外シフト(アウトソーシング)して世界の最適地で作れば良い、ということを大前研一は言っているのである。これはビジネスシーンにおいて欠かせない「選択と集中」と「業務の効率化」という当たり前のことを日本の企業に迫っているだけであり、全く正論だと感じる。

こうしたボーダレスなモデルを聞くと、産業の国外シフトによって産業空洞化を懸念する人もいるだろうが、日本の2倍以上も産業空洞化の進んだイギリスやドイツやアメリカを見ても、産業空洞化が国力の衰えを誘発しているとは言えない、と大前研一は反論している。例えば食糧の自給率にこだわる人もいるだろうが、今の御時世、食料だけでは生きていけないのだから、日本が日本でしか作れない重要な商品を作り、外国と緊密な関係を構築し、「外国が食糧や資源を日本に供給せねばならないような状況」を戦略的に作る方がよっぽど重要だと思う。工業だって、それと同じなのかもしれない、と今は思ったりもしている。東大阪の町工場が値段勝負で海外に勝てるはずがないのは、既に明らかだ。高付加価値・高収益の商品で生き残るか、海外を巻き込んだビジネスモデルを構築して生き残るという道を町工場も模索するべきだし、また実際そうでなければ生き残れないだろう。

前回の『チャイナ・インパクト』とは視点や切り口を変えているが、先に『チャイナ・インパクト』を読んでから本書を読んだ方が理解も深まると思う。本書も面白いので、必読。