村上春樹『象の消滅』

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991

村上春樹の小説は海外でも多数翻訳されているが、本書は、以前に英語版で出版された村上春樹の短編集を、それと同じ構成で、日本語版として出版したものである。いわば逆輸入である。
といっても、俺は本書に収録されている短編を全て読んだことがあるのだが、2つの理由から買うことにした。1つは、俺の最も好きな短編の1つである『午後の最後の芝生』が入っていること。良い短編は何度読んでも良いものである。そしてもう1つは、村上春樹自身による『象の消滅』出版に関する長めの解説が載っていること。村上春樹が翻訳に対する並々ならぬコダワリを持っていることは有名であるが、そんな村上春樹が、自作が翻訳出版され、それが日本に逆輸入されることに対して、解説を寄せているのである。フリークにはとても面白い趣向であると言えよう。
1つ1つの短編は既に読んだことのあるものなので、特に語るべきことは無いが、全体として村上春樹の初期の空気を上手くすくい取った本だという印象を持った。本書は村上春樹の短編の入門としても良いんじゃなかろうか。