舞田竜宣『10年後の人事』

10年後の人事

10年後の人事

本屋に行くと成果主義に関する本が数多く並んでいる。成果主義を批判する本も多い。しかし俺は、成果主義は弱肉強食や階級格差の温床などではなく、企業経営の前提ではないかと感じるようになった。何を成果と捉えてどのように評価するかが問題であり、成果を評価すること自体は全く間違っていないからだ。
年齢や学歴や経歴や派閥や声の大きさといった要因に左右されることなく、自分の生み出した成果を適切に評価してもらいたい――そう多くの人は感じているはずである。その「成果」の基準は会社によって違って良いし、「評価」の基準も、必ずしも単なる金銭を指しているわけではなく、むしろ感情に根ざした面を強く持っていると思う。つまり成果主義を「硬直的な成果や金銭格差で縛る非人間的な主義」だとする論調は、成果主義の本質を間違って理解していると俺は思う。少なくとも、そのような前提は生産的ではない。
そもそも成果主義の本来的な目的とは、人材のモチベーションを保ち続けて気分良く成果を上げ続けてもらい、ハッピーに働き続けてもらうための発想や手法――とは言えないだろうか。曲解した意見なのかもしれないが、あまり離職率が高いと暗黙知の伝達が行われず業務レベルが目に見えて低下するし、少なくとも優秀な人材は短期的な成果だけでなく長期雇用を前提に働いてもらうべきなのも事実だ。つまり成果主義そのものは何ら批判されるべきものではない。成果主義年功序列や学歴主義は並存しないが、成果主義と終身雇用(あるいは長期雇用)が並存しても、全くおかしな話ではないと俺は思うのである。
その意味では、本書は人材マネジメントに対する俺の実感と同じ方向感を持っているように思う。成果主義それ自体を前提とした上で、いかに非金銭的報酬を従業員に与えるか、いかに従業員のモラルやモチベーションを高め続けるか、いかに社員のメンタルヘルスを守るか、いかにリテンション(人材流出防止)戦略を展開するか――といったことに多くの頁が費やされている。これが10年後の人材マネジメント像なのだと著者は述べているが、俺の実感でも、その通りだと感じる。とても良い本だと思う。個人的には必読か。