奥本大三郎『ファーブル昆虫記5 カミキリムシの闇の宇宙』

ファーブル昆虫記〈5〉カミキリムシの闇の宇宙 (集英社文庫)

ファーブル昆虫記〈5〉カミキリムシの闇の宇宙 (集英社文庫)

大人が読んでこそ面白い、『ファーブル昆虫記』のジュニア版。
第5巻では、ハナムグリやカミキリムシ・ゾウムシといった、カナブンやカブトムシに代表される甲虫の仲間に多くのページを割いている。また同じく甲虫のシデムシやハエといった、腐った動物を餌にして地球の循環(リサイクル)に貢献している虫も熱心に調べている。
本書では、特にシデムシの生態研究が面白い。シデムシはそれほど大きな昆虫ではなく、せいぜい2〜3センチであろう。しかしネズミどころかモグラほどの死骸も、わずか数時間ほどで地中に埋めてしまうのである。幼虫の餌や自身の食料とするためだが、つがいや複数のオスが一緒になって死骸を埋める姿が目撃されていることから、ファーブルの時代には「かなり高度な知性や社会性を持っているのではないか」と思われていたそうである。ファーブルはさまざまな実験の結果、シデムシはたまたま死骸に釣られて一緒に作業をしただけで、高度な知性を持っているわけではない、と結論づけている。しかし社会性ということで言うと、Wikipediaによると、シデムシの中には「親が子に口移しで餌を与える行動」を取る亜社会性の昆虫の存在も知られているそうだ。
まあ口移しといってもシデムシに愛の概念があるとは考えづらいが、死骸を餌にする「リサイクル昆虫」が人間の愛情表現にも似た行動を取ることに対しては、ちょっとした感情移入や象徴的な深読みも可能であろう。非常に興味深い虫であった。