関川夏央+谷口ジロー『『坊っちゃん』の時代 第四部 明治流星雨』

激動の時代であった明治時代を生き抜いたを明治人(あるいは明治時代そのもの)を、日本を代表する文豪・夏目漱石を軸に描き出した漫画――であったが、好評だったらしく、全5巻のシリーズになった。第四部は、幸徳秋水大逆事件の前夜、そしてその顛末を中心に取り上げている。
大逆事件(幸徳事件)とは、控えめに見てもせいぜい3〜5人が関わったに過ぎない、粗雑で夢想的な明治天皇殺害計画(手投げ爆裂弾による襲撃計画と爆弾の実験)を、社会主義者やアナーキスト弾圧の口実として用いて、この計画と全く無関係な人間を含めた24人に死刑判決を下し、うち12人が数日後に処刑された事件のことである。この大逆事件は、当時の刑法に則っても、今の常識から考えても、異様な「事件」としか言いようが無い。

武者小路実篤正宗白鳥永井荷風らは、口ごもったような調子の作品で自らの感想を示したが、それはまさに不思議な事件だった。どう考えてみても大部分の被告たちは、その行動によってではなく、その思想によって処刑されたとしか受取れなかったので、沈黙を守った作家たちもひとしく不吉な衝撃を味わい、このとき日本の青年期たる「明治」は事実上終焉した。そして日本と日本人は、昭和二十年の破局に至るレールの上をたしかに走り始めたのである。

本書を読む限り、大逆事件はまさに時代の転換点たる「事件」であった。本書は難しい問題にチャレンジしたなあ。しかし素晴らしい漫画として仕立て上げることに成功している。予備知識が全く無くとも、この事件が異様であることを感覚的に理解できる。もっと詳しく知りたい事件だと思った。