『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 [DVD]

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攻殻機動隊シリーズとは(士郎正宗による漫画を原典として)映画・テレビアニメ・小説・ゲームなどへと様々に派生しているSFであり、本作はその劇場版第一作である。攻殻機動隊については説明を書き出すと止まらないので、差し当たりWikipediaを引用することとしたい。

時代は21世紀、核戦争とそれに続く世界大戦を経て、世界秩序は大きく変化し、科学技術は飛躍的に高度化した。その中でマイクロマシンを脳の神経ネットに直接接続する電脳化技術や、義手・義足にロボット技術を付加した発展系であるサイボーグ(義体化)技術が発展、普及した。その結果、多くの人間が電脳によってインターネットに直接アクセスできる時代が到来した。人間、電脳化した人間、サイボーグ、アンドロイド、バイオロイドが混在する社会の中で、テロや暗殺、汚職などの犯罪を事前に察知してその被害を最小限に防ぐ内務省直属の攻勢の公安警察組織、攻殻機動隊(公安9課)の活躍を描いたサイエンスフィクションである。

「電脳化」や「義体化」といった攻殻機動隊を象徴する技術(いや、技術どころか世界観そのものとも言える)に関しては、「百聞は一見に如かず」ではないが、本作を見ることで直感的に理解できるような流れになっている。あえて俺の言葉で再定義するならば、「電脳化」とは、脳への直接的なアクセスおよびデータのやり取りを可能にすることである。電脳化を施した人間には首筋にプラグのようなものがある。そこからデータを瞬時に取り込んだり、口を開かずに仲間同士で話をしたりしているようだ。警察や公安といった多くの情報を精確に扱う必要のある職業では、大半の人間が電脳化を行っている。また「義体化」とは、上掲の引用文にあるようにサイボーグ化のことである。人間の限界を超えた身体能力や視力を獲得することも可能になるが、同時に人間とロボットやアンドロイドとの境目を曖昧にするという社会問題も生んでいる。さらに、ロボットや他の人間と自らを分かつ、自らのアイデンティティとも言うべき自我を本作では「ゴースト」と呼称しているようだ。
攻殻機動隊シリーズの世界観や技術について素晴らしいと俺が思うのは、それらが非常にワクワクドキドキする未来的発想であると同時に、現代社会そのものを象徴してもいる、ということだ。俺はあまりSFに明るい方ではないのだが、俺が面白いなと思うSFとは、その作品の発想や技術・世界観が、未来を照射していると同時に現代も照射し得ている作品である。言い換えれば、SFの面白さの1つは、未来と現代、あるいは空想と現実を結びつける奇妙な結節性にあると言って良い。ゴーストなどはまさに現代社会そのものの象徴ではないか。
また本作の冒頭では、以下のような印象的な言葉が語られる。

企業のネットが星を被い
電子や光が駆け巡っても
国家や民族が消えてなくなるほど
情報化されていない近未来――

この言葉もまさに、本作の世界観を表していながら、現代社会そのものを象徴している言葉であろう。今のところ、インターネットは決して国家や民族の消失を導くことはなく、むしろネットの奥底から奇妙に右傾化したラディカリズムが台頭しているし、情報社会の発達による新たなテロリズムの影が不気味に暗躍している。