インキュベ日記

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ピープルフォーカスコンサルティング『組織開発ハンドブック』

組織開発ハンドブック―組織を健全かつ強固にする4つの視点

組織開発ハンドブック―組織を健全かつ強固にする4つの視点

ブームになるずっと前からファシリテーションの重要性を見抜き、ファシリテーション研修やコンサルティングで人事・組織系ソリューションを提供してきた企業により、組織開発(Organizanational Development/OD)を包括的に紹介した本。ファシリテーションの第一人者の1人で『ファシリテーター型リーダーの時代』の監訳でも知られる黒田由貴子が代表を務め、また『なぜあの人だと話がまとまるのか?』や『組織の「当たり前」を変える』の著者である田村洋一も参画している。
本書は以下の4章で構成されている。

第1章 組織開発とは何か
第2章 組織の悪循環:不健全な組織からの脱却
第3章 強固かつ健全な組織作りへの挑戦
第4章 強固で健全な組織を作るための4つの視点

第1章では「組織開発」についての概念的な説明が書かれている。組織開発の意味合いについては「組織を強固かつ健全にすること」と定義されているが、俺の就業経験から照らし合わせても、全く同感である。組織は強固であるばかりでなく、健全でならなければならない。
続く第2章は、上手く回らない組織の典型例をケーススタディで紹介している。この章が個人的には驚愕であった。特定の企業を取り上げたわけではなく、上手く回っていない組織の共通性を取り出したものなのだが、まさに「これって俺の勤務先?」と思うほどのケースだったからである。
リーダーシップに長けていると評判だった社長は、事あるごとにビジョンを説いて回るなど、とにかく会社をたきつけようとする。しかしビジョンを書いたポスターを貼ったり社長の経験談(自慢話?)を聞いたりしたところで会社は一向に変わらない。部長たちからの報告も目標未達の声ばかりである。
営業部長は営業成績の2割アップの目標を与えられた。営業部長は社長の言動をそのまま踏襲し、部下に対して声高に業績アップを説いて回り、檄を飛ばす。確かに部下も「このままでは会社の未来は期待できない」と納得している。達成したいとも思う。しかし今までも無理をして必死にやってきたのに、ただ単に「あともう2割がんばれ」と言われても悲鳴を上げるしかない。結局、部下の何人かは会社を見限って退社し、営業目標は未達に終わる。
開発部長は開発工数を大幅に削減する策を考えるという目標を与えられた。しかし部下は今現在も許容範囲を超えて働いている。開発工数の削減策を考えるために長時間働かせて、過大なプレッシャーを与えるわけにはいかない。そのため、部下を案じて開発部長が仕事を抱え込み、自分1人で開発工数削減策を検討する。一方、部下は今のやり方に不安を感じているものの、改善に向けてオフィシャルに声を上げる場や機会がない。結果、開発部長は体調を崩して、部署の目標も未達に終わる。
人事部長は「社員意識改革プロジェクト」の実現という目標を与えられた。しかし人事部長は「優秀な社員たちは通常業務で忙しいし、目をかけている社員に失敗が見えているプロジェクトをやらせてキャリアに傷をつけるのはかわいそうだ」と考え、プロジェクトを冴えない一般太郎1人に任せる。他のメンバーも人事部長の意向を汲み取って、プロジェクトに冷ややかである。一般太郎は助けてもらえない状態で必死に実現に向けて頑張ったが、現場の抵抗に遭って早々に挫折する。
本書の図を参考にしながら俺なりに再整理すると、以下のようになるだろうか。

社員をたきつけたい社長 / 笛吹けど踊らぬ社員
上を真似て無茶な要求を突き付けるマネージャー / 悲鳴を上げるメンバー・見放すメンバー
抱え込むマネージャー / 見守るだけのメンバー・動かないメンバー
押し付けるマネージャー / 仲間を助けない冷ややかなメンバー・自滅するメンバー
→目標未達

機能していない組織の実情を実に巧く凝縮したケーススタディである。この章は個人的には必読。
一方、第3章では、組織開発に成功した実際の企業のケースを取り上げている。ケースはファイザー株式会社臨床開発部門、テラダイン株式会社、住友スリーエム株式会社、株式会社アドバネクスの4社。本章も実に面白く、刺激的だ。
最後の第4章では、具体的な組織開発の手法やキーワードを解説している。そのポイントは大きく「リーダーシップの強化」「チームを作る」「変化と共に生きる」「多様性を生かす」の4点に大別され、それぞれ3つずつ以下のテーマが解説されている。注目されているホットトピックを外すことなく、それでいて研究と実践の双方の蓄積がなければ書けない深さがある。どれも非常に興味深い。

リーダーシップの強化① 自分自身を見つめて:リーダーシップ考察
リーダーシップの強化② 組織が一丸となるには:ビジョンの浸透
リーダーシップの強化③ はだかの王様を排除する:エグゼクティブ・コーチン
チームを作る① 真のチームをどう作るか:チームビルディング
チームを作る② 会議を創造の場に:ファシリテーション・スキル
チームを作る③ チームは海を渡る:バーチャル・チーム
変化と共に生きる① 対立は歓迎するもの:コンフリクトマネジメント
変化と共に生きる② 変化を加速する:変革ファシリテーター
変化と共に生きる③ 未知との遭遇:変革時代のモチベーション
多様性を生かす① 多様性をパワーに:ダイバーシティの視点
多様性を生かす② グローバル組織の運営:異文化経営
多様性を生かす③ 多様な人材に活躍の場を:キャリアデザイン

概念説明・ケーススタディ・テーマ解説・コラムと構成バランスも取れており、相当良い本。個人的には必読。特にケーススタディは人材業界や人事部といった直接HRM領域を仕事としていない方にもオススメできる。