重松清『その日のまえに』

その日のまえに

その日のまえに

「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」という一連の短編が、泣ける。夫婦と息子2人の幸せな生活がこれからも続くと思っていたのに、全身に転移したガンがその幸せを奪う。ただ、幸か不幸かガンという病気は死ぬまでの準備をする時間を本人や家族に与えてくれる病気でもある。色々なことを考えたり色々なところを訪れたりして、最後には(薄々気づいていた)息子2人にも事実を伝え、家族で静かに妻を看取る。妻が亡くなってしまう日を夫婦は「その日」と呼んでいたのである。妻の死を受け入れ、看取るというのは、佐藤秀峰の漫画『ブラックジャックによろしく』の「がん医療編」にも通ずるモチーフで、併せて読んだら余計に泣けた。また、その他の作品も(連作集というほどではないが)登場人物や街が少しずつ繋がっている。このあたりの構成はさすがに巧い。