藤子・F・不二雄『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 5 [メフィスト惨歌]』

藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 (5) (SF短編PERFECT版 5)

藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版 (5) (SF短編PERFECT版 5)

藤子・F・不二雄は、『ドラえもん』や『パーマン』『21エモン』『ウメ星デンカ』『モジャ公』『キテレツ大百科』『エスパー魔美』といった漫画で知られている漫画家である。藤子・F・不二雄の言う「SF」は「サイエンス・フィクション」の略ではなく、「すこし・不思議」の略である。これらのすこし・不思議な「SF」は、まさにF氏にしか書けない貴重な子供向け作品群だが、一方で大人向けのSF短編集も意外なほど多く発表している。本書は、発表された年代別に藤子・F・不二雄の大人向けSF短編112話を全8巻に完全収録したパーフェクト版である。
シリーズ第5巻には以下の作品が収められている。

並平家の一日
ぼくの悪行
うちの石炭記
流血鬼
ベソとこたつと宇宙船
ふたりぼっち
影男
宇宙船製造法
山寺グラフィティ
マイ・ロボット
メフィスト惨歌

本書の白眉は「流血鬼」であろう。世界中にマチスン・ウィルスという謎のウィルスが蔓延し、父も母も友達も親友の兄も、みんなが吸血鬼になってしまう。人類がいずれ反攻を開始することを信じて、親友と2人、少年は孤独な戦いを続ける――というアウトライン。「流血鬼」というタイトルは批評精神に富んだ暗示的な言葉である。
表題作「メフィスト惨歌」は、1人の冴えない男が悪魔を手玉に取る話。なかなかユーモラスで面白いが、ただの冴えない男でも悪魔より怖い、というのも皮肉な話だ。あと個人的には「ふたりぼっち」も特に面白かった。パラレルワールドと繋がって、自分自身と友達になる。最初は上手くやっているが、だんだんライバルとしてパラレルワールドの自分自身をライバルとして見始めて――という話。「自分自身がライバル」という発想そのものを物語に仕立て上げる手わざはさすがと言うほかない。
なお巻末には小西湧之助(『ビッグコミック』『ビッグコミックオリジナル』初代編集長)によるエッセイ「藤本さんの事」が収録されている。エッセイを読む限り、この人が「ミノタウロスの皿」を書かせた張本人で、ひいては大人向けSF作品のもう1人の生みの親と言えるかもしれない。F氏の才能をさらなる地平まで押し広げた小西湧之助の功績は称えられて良い。