ジョン・ウッド『マイクロソフトでは出会えなかった天職』

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

若くしてマイクロソフトのエグゼクティブにまで登りつめた著者が、一転して、貧困のサイクルを断ち切るため途上国の子どもに図書館や学校といった教育インフラや本を届けるNPO「ルーム・トゥ・リード」を立ち上げ、社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)として短期間で成果をあげる――といったアウトラインであろうか。
ボランティア、NPO社会起業家、先進国−発展途上国問題、格差問題など、様々なキーワードで読み込むことが可能な本だが、俺はあくまでも自己実現の物語として読んだ。本書からは多くのことが学べる。
例えば、著者はマイクロソフトスティーブ・バルマーから学んだことを「ルーム・トゥ・リード」に持ち込んでおり、それが数多あるNPOとの差別化にも繋がっているそうだ。議論ではなく行動すること、結果を最重視すること、説明責任を果たすこと、具体的な数字を重んじること、上司と部下のあいだに「双方向」の忠誠心を培うこと――Amazonのレビューで誰かが書いていたが、言うことは簡単で、しかし逃げずに貫き通すことは非常に難しいことばかりだ。結果重視・数字重視の欠けた組織は弛緩したサークル活動のようなものだが、NPOやボランティアといった組織が陥りがちな罠であろう。しかし「ルーム・トゥ・リード」は2007年6月現在で、287の学校、3,540の図書館、140万冊の本を発展途上国に贈っている。決して理想や理念に逃げてはいないのである。
スティーブ・バルマーの遺伝子を受け継いだ著者から、俺がさらに学ぶとすれば、それは「粘り強く取り組むこと」「情熱と社会的野心を原動力に動くこと」「体力をつけること」であろうか。物事を成し遂げるには精神にも肉体にも圧倒的なパワーが必要である。
それにしても、本書は実に良い本だ。思わず目頭が熱くなるほどのアツさがある。もっと多くの人が手に取った方が良い。それだけの価値がある。