伊丹敬之『マネジメント・コントロールの理論』

マネジメント・コントロールの理論

マネジメント・コントロールの理論

「マネジメント・コントロールとは何か?」という問いに答えた数少ない本。本書と前日にエントリーした『ゼミナール 経営学入門』を基に、マネジメント・コントロールとは何かを自分の整理のためにも書いてみたい。
まず、マネジメント・コントロールの定義について書きたい。最もシンプルかつ強力な定義は「他人に任せた意思決定のコントロール」である。もう少し詳しく書けば「階層的な意思決定システムにおいて、下位者に対して権限委譲された業務プロセスのコントロールや意思決定を、さらに上位者からコントロールすること」と言える。
そのマネジメント・コントロールには、大きく3つの方法がある。ひとつが、直接介入である。上位者が下位者に対して具体的に指示を行う。学術チックに制御としてのコントロールなどと呼ばれている。もうひとつが、影響としてのコントロール。直接あれしろこれしろとは言わないが、方向性を定めたり、業績評価の仕組みで方向づけを行ったり、経営計画や事業計画によってコミットさせたりする。そして最後は、選択である。簡単に書けば、誰に何をやらせるかを決めることだ。
また、いつコントロールを行うかという観点もある。ひとつは、事前にあらかじめ将来取るべきあるいは取ってもらいたい行動の案を練っておくという観点。それは経営システム/経営計画制度によってコントロールされる。そしてもうひとつは、その計画に沿って動き出した後で、計画通りにはことが進まないときに修正行動を取るという観点。これは業績評価制度でコントロールされる。業績評価制度には、単にパフォーマンスを査定・測定するだけではなく、途中段階での目標への到達状況のモニタリングや、キャッチアップのメカニズム、目標到達へのインセンティブシステムが必要だということに留意していただくと、イメージしやすいだろう。
さらに本書では「いったい何が業績を決めるのか?」という観点からも、この経営計画制度と業績評価制度を位置づけようとしている。

業績=環境×事前計画(活動ベクトルの方向)×適応的努力水準×能力

「環境」は、文字通り経営体の内外の環境である。例えばコンビニを例に取るならば、典型的な環境要因とは立地であろう。駅前なのか、郊外なのか、近くにコンビニやスーパーはあるか、人の流れはどうか、治安はどうか……。もちろん立地以外にも様々な環境要因がある。「事前計画」とは、典型的には経営計画や事業計画がどの程度しっかり作られているかという点であり、このメカニズムが経営計画制度である。ただし、もちろん計画通りに進むとは限らないし、環境も常に変化するのだから、業績目標を達成するためには適切にアクションプランの修正が行われなければならないわけで、その修正がどの程度しっかり行われるかという観点が「適応的努力水準」である。最後は、上位者や下位者の「能力」である。本書では、3点目と4点目を業績評価制度でカバーすると書いている。
以上、駆け足かつ乱雑なのを承知でマネジメント・コントロールの要諦を(ほぼ自分のために)まとめてみた。完全に理解し切れていない部分もあるのに、敢えて丁寧にまとめてみた理由は、本書が(おそらく)絶版だからである。
俺は勤務先の本棚に置いてある本を読んだが、買おうにも、Amazonにもbk1にもジュンク堂にも紀伊国屋にも旭屋にも在庫がない。1986年出版なので確かに古いのだが、しかしマネジメント・コントロールの理論的な検討が為されたもので、本書を超えるものが幾つもあるとは思えない。まあ増刷を求めるのも良いが、本書の「はしがき」では「マネジメント・コントロールの理論作りの中間報告」と書いている。ここは伊丹敬之先生に、腰を据えて、マネジメント・コントロールを徹底的に掘り下げた本を再度執筆していただく他ないだろう。