永田豊志『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』

知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100

知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100

少し前に流行ったフレームワークブームに追従した本。発売直後、100個も載せているのかとかなり期待して買ったが、帰宅後に本を開いたら「半分以上はフレームワークですらない」というフザケた本だったので、これまで読まずに放置していた次第。
今回きちんと読んでみたが、最初から、仮説思考や組織図・財務諸表三表・マインドマップといった「フレームワーク」と呼ぶにはかなり微妙な項目が満載である。しかも後半では、チャート(というかグラフの種類)の一つ一つの解説や、PCのショートカット・ファイルの拡張子一覧・PCのメモリの重要性といったものまで100にカウントしている。じゃあ最初から30で良いだろう! そもそも著者が自分で「フレームワークとは思考の枠組みのことです」と書いておきながら、組織図や円グラフやPCのショートカットをフレームワークとして紹介する欺瞞と言ったらもう……著者も編集者も、読者を本当に小馬鹿にしていると俺は思う。
何人が本書を買って「まあ、こんなもの……なのかもね」と嘆息したことだろう。著者や編集者は、活字離れやブックオフの台頭を嘆く前に、まずはこういう読者を小馬鹿にした本を作るのをやめて、誠実な本を作るべきである。最近はインターネットでの情報収集も活発化しているし、アルファブロガーの影響もあって、面白い本&面白そうな本は、爆発的に売り上げが増加している。本書だって、その可能性を秘めたテーマだと思うのだが。
ただし肝心のフレームワークの解説についても、過去の本のパクリの域を出ないため、いくつかの解説では完全に破綻している。
例えば、組織図の解説。そもそも組織図がフレームワークなのかという時点で既に大いに疑問なのだが、内容も、ヒエラルキー型・プロジェクト型・マトリックス型という分類とその素朴な解説をしたのみである。まあ機能別組織・事業部別組織・マトリックス組織という教科書的な類型とせず、「プロジェクト」にスポットライトを当てようとした点には、著者の意思を感じた。ただし、それなら何故プロジェクトというものの性質をもっと深く掘り下げないのか? いや、本当は著者も気づいているはずである。ヒエラルキー型とマトリックス型の組織構造は示せるが、プロジェクト型の組織構造を上手く示せない時点で、当然「ここは相当に面白いテーマだ」と気づいていると思う。しかしそれを指摘してしまうと、「組織図」というテーマから外れてしまうと考えたのか、著者はせっかくの面白いテーマを深掘りすることなく放置しているのである。それに本書では「組織横断プロジェクト」と「プロジェクト型組織」が完全に混同されている。これでは読者が混乱するだけである。
そもそも純粋なプロジェクト型組織には組織図なんて存在しないと俺は考える。例えば、俺の今の勤務先は、ほぼ純粋なプロジェクト型組織と言って良い。25名ほどの会社なのだが、社長がいて、プロマネがいて、その下にメンバー(コンサルタントコンサルティングスタッフ)がプールされている。そしてプロマネが仕事を取ってくる度に、プールされたコンサルタントコンサルティングスタッフの中から適切なメンバーが選ばれ、そのプロジェクトにアサインされる。そしてそのプロジェクトが終われば、またメンバーはプール状態に戻る――このような構造である。しかも今、便宜的にプロマネとメンバーに分けたが、実際にはプロマネクラスのコンサルタントがメンバーとしてアサインされることもあるし、小さなプロジェクトではメンバークラスがプロマネを務めることもある。まあ、さすがにメンバークラスがプロマネクラスを束ねるプロジェクトは今のところ無かったけれど、社内業務では、それに近いことは経験済である。つまり極端に言えば、社長の下はほぼフラットなのである。仕事の度に、上司・部下関係も仕事内容も役割も変わるのに、組織図なんて作れる訳がないではないか。
さらには、マトリックス型組織というのはいわゆる「ツーボス・システム」の一形態だが、著者が書くように、ツーボス故に運用が難しい。マトリックス型組織というのは、理論上・学説上は生息しているが、実際に教科書的なマトリックス型組織を採用し、しかも機能し続けている企業など、寡聞にして俺は知らない。機能別・事業部別・マトリックスという教科書的分類から離れようとするならば、こんなものを紹介する意味なんてどこにあるのだろう?
……さて、最後にメリットを。ここ数年は、読む価値のない本は途中で読むのを中止しているので、ここまで批判することも少なかった。しかし本書の場合、あまりにも読者を小馬鹿にしているため、最低でもこれくらいは批判めいたことを書かないと、肝心のメリットが書けない。メリット――これはやはりカバー範囲の広さだろう。例えば、「アドバンテージマトリックス」や「SIPOCダイアグラム」といったフレームは、恥ずかしながら初耳だった。考え方としては、別にこれまでも意識してきた方法であったけれども、ゼロからフレームを検討しなくて良いという意味では、やはり確立したフレームは便利である。