筒井康隆『家族八景』

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

筒井康隆による「七瀬三部作」の第一作。
精神感応能力者(テレパス)である火田七瀬が、家政婦として様々な家庭を転々とする中で、その能力が故に、否応にも人間心理の内側を暴き出してしまう――といったアウトラインだろうか。
筒井康隆の本については、これまで『文学部唯野教授』や『残像に口紅を』といった実験的な作品しか手に取ったことはなく、(集中的に読むことに興味はあったけれど)あまり良い読者であったとは言えないだろう。しかし、きちんと読んでみて――この人は凄い、と実感。まあそんなことは俺が言うまでもなくみんな知っているのだが、この連作の面白さと言ったら半端ないよマジで。

人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい本

背表紙には、上記のような解説が書かれていたが、確かに、人間の「おかしみ」をここまでえぐった作品は少ないだろう。内面心理と表層的な振る舞い、そのギャップの薄気味悪さが「滑稽」にすら見えてくるシーンがいくつも出てくる。必読だね。
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