イワシタシゲユキ『女王様がいっぱい』1巻

女王様がいっぱい 1 (BUNCH COMICS)

女王様がいっぱい 1 (BUNCH COMICS)

主人公の泉佐野は、「文学史に名を残す文豪になる」夢を早々に諦め、「文学史に名を残す文豪を育てる」夢と共に出版社に就職する。しかし文芸に携わる機会がないままいくつかの雑誌を転々とし、今回の異動では何と、レディコミ顔負けの過激な描写を売りにした少女漫画誌に配属されてしまう――というプロローグから始まるラブコメ。

編集部の女は、とにかく全員がクセ者揃い。

副編集長の岬杏子(34) 物腰は柔らかいが絶対ノーとは言わせない 絶対零度の女
同期の沼袋みちる(28) 新入りのオレ何かと気にかけてくれる優しさを持つものの、その優しさにいつも見返りを期待している 自意識過剰女
一番年下の倉沢晶子(23) 頭が良くて仕事もできる娘だけど、計算高くて底抜けに腹黒い 油断禁物の女
デスクの久遠静香(30) 抜群のプロポーションを持つクールビューティーのくせに、口を開けば下ネタしか出て来ない 猥褻物陳列罪女
派遣社員の葉月紗香(24) 社員じゃないくせに態度はやたらでかいし、何が気に入らないのか常に攻撃的で、眉間のシワがデフォ とにかくオレがこの世で一番嫌いなタイプ 超弩級の自己主張女

でも一番のクセ者は、やっぱりこの主人公であろう。圧倒的なまでの女性蔑視的な発想。気の良い主人公がブッ飛んだ女たちに翻弄されるだけなら、よくある漫画である。しかし実は主人公の男がダメ男だという点で、この漫画は他の漫画と一線を画している。同僚の編集に手を出すわ(しかも家庭教師時代の元教え子!)、担当の女子高生漫画家に手を出すわ、それでいて心の中では同僚の女性を罵倒しながら、何で俺は文芸の編集に携われないんだと不満を持っている……と、ここまで批判めいたことを書いているように思われるかもしれないが、俺は、この作品は大傑作だと思っている。「主人公に共感・感情移入できなくとも面白い作品がある」という好例で、実に読み応えがある。2巻以降の感想でも、この作品の独特な魅力を書いていきたい。

余談

以前も書いたことがあるが、実は本作に限らず、イワシタシゲユキという漫画家の描く漫画は、とにかく主人公に全く感情移入できない。例えば『バドフライ』は、高校バドミントンを題材とした青春スポーツ漫画だが、「主人公が物凄い集中力の持ち主で、コンセントレーションが高まると汗っかきの主人公の汗が止まる」という微妙な設定で、好きな女の子のために集中力を発揮して強敵を倒し、気がつけばいつの間にか集中力だけでなく実力も付いている。そして内田春菊原作による『ぬけぬけと男でいよう』は、劇団の女優と結婚したサラリーマンが、あまり妻と上手く行っていないこともあって別の女と浮気をしており、その女とも上手く行かなくなってくると今度は社内の若い女と浮気をするという、とんでもないクズ男が主人公である。

バドフライ(1) (ビッグコミックス)

バドフライ(1) (ビッグコミックス)

バドフライ(2) (ビッグコミックス)

バドフライ(2) (ビッグコミックス)

バドフライ(3) (ビッグコミックス)

バドフライ(3) (ビッグコミックス)