古川日出男『僕たちは歩かない』

一流シェフを目指す若者たちが、それぞれの方法で異界にズレて、東京の隠された「2時間」を発見する。彼らはその世界で出会い、仲間意識を醸成しながら料理を学び合っていくのだが、ある日「ホリミナ」という女がその集まりに来なくなってしまった――というプロローグ。
何とも両義的な読後感を覚える作品であった。古川日出男らしく、一人ひとりの登場人物の内面には決して深入りせず、心情描写もほとんどない。しかし若者たちの行動は、もはや若者と言えなくなりつつある年代に突入した俺にも「手に取るように」わかるものであった。荒唐無稽な話だが、それでもなお、俺が若者で、仲間がこのような自体に陥ったら、きっとこうしたんじゃないだろうか――という感情。彼らは若者らしい無鉄砲さに溢れており、頼もしさと危なっかしさの両方があり、ラストシーンにも清々しさと奇妙な切なさがある。
あくまでも小品であり、すぐに読める上、イラストも豊富でイマジネーションも刺激される。古川日出男の入門書として読んでみるのも良いかもしれない。

余談

名前が「カタカナの名字」で表記されるところや、パラレルワールド的な東京にズレるところなど、個人的には村上龍『五分後の世界』のオマージュなのかなと直感的に感じた。ただ、村上龍のような圧倒的な暴力が描かれているわけではないし、古川日出男は元々カタカナで名前を表記することもわりと多い。真偽はもちろん不明。どうなんだろうなー。
五分後の世界 (幻冬舎文庫)  ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2 (幻冬舎文庫)