サイモン・コンスタブル+ロバート・E・ライト+上野泰也+高橋璃子『ウォールストリート・ジャーナル式「経済指標」読み方のルール』

ウォールストリート・ジャーナル式 経済指標 読み方のルール

ウォールストリート・ジャーナル式 経済指標 読み方のルール

投資家向けの経済指標の読み方指南本。本書のコンセプトとして、メジャーすぎる指標はあえて外されている。俺としては「あえて」感覚のあるメジャーな指標の深い読み方を知りたいと思っていたので、その点は読み始めてすぐ肩透かしを食ったが、それでも日本人にとってはメジャーな日銀短観や1人当たりGDP出生率、金融系には常識のLIBORイールドカーブといったものも挙げられており、単なるイロモノ指標ばかりというわけではない。
紹介されている50の指標を列挙しておく。

■PART1 個人消費に関する経済指標
01 自動車販売台数、02 チェーンストア売上高、03 消費者信頼感指数、04 中古住宅販売件数、05 不完全雇用

■PART2 投資支出に関する経済指標
06 BBレシオ、07 銅価格、08 耐久財受注額、09 住宅建築許可件数と住宅着工件数、10  鉱工業生産指数と設備稼働率、11 ISM製造業景況指数、12 ISM非製造業景況指数、13 JoC-ECRI工業価格指数、14 LME在庫、15 家計貯蓄率、16 単位労働コスト

■PART3 政府支出に関する経済指標
17 財政赤字と債務残高

■PART4 貿易収支に関する経済指標
18 バルチック海運指数、19 ビッグマック指数、20 経常赤字、21 石油在庫、22 日銀短観、23 対米証券投資(ネット長期TICフロー)

■PART5 複合的な経済指標
24 ベージュブック(地区連銀経済報告)、25 クラック・スプレッド、26 CAO(信用力オシレーター)、27 FF金利、28 出生率、29 1人当たりGDP、30 LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)、31 マネーサプライ(M2)、32 新築住宅販売件数、33 フィラデルフィア連銀ADS業況指数、34 フィラデルフィア連銀景況指数、35 実質金利、36 空売り残高、37 ラッセル2000指数、38 週間景気先行指数(WLI)、39 イールドカーブ(利回り曲線)

■PART6 インフレその他の不安要素に関する経済指標
40 GDPデフレーター、41 金価格、42 ミザリー指数、43 生産者物価指数(PPI)、44 小口投資家、45 クレジット・スプレッド、46 TEDスプレッド、47 ゾンビ銀行率(テキサス・レシオ)、48 TIPSスプレッド、49 CBOEボラティリティ指数(VIX)、50 ウェイトレス美人指数

本書の良い点は、まず「発表時期」「データの入手先」「注目ポイント」「意味すること」「投資アクション」「リスク評価」「リターン評価」の7点が具体的に書かれていること。特に指標の読み解き方が具体的な点は、読んでいて非常に面白い。
例えば「自動車販売台数」は中古ではなく新車に着目すること。また明確な上昇・下降トレンドを探した上で、上昇時は景気回復を意味しないこともある(例:金利低下)が、下降時は景気後退時の明確な先行指標なので株を売ること……などと書かれているが、実に具体的である。また「銅価格」は景気のバロメーターだとした上で、銅価格を結果指標ではなく、銅価格の先行きを予想できる在庫量の具体的な調査方法も紹介している。
なお筆者や訳者は、本書の50だけでなく、自分なりの「経済指標」を探したり考えたりすることを推奨しているが、本書で挙げられた指標の読み方が具体的なので、本書の50指標に限らず、世の中の一見些細なTOPICSやMOVEMENTを経済活動として自分なりに噛み砕く訓練になりそうである。これが本書の良い点の2つ目。今日の帰宅途中につらつらと考えてみたジャストアイデアのレベルだが、例えば最近は年末商戦が凄く早まっている気がする。昔は12月の1週目・2週目のボーナス発表時期だったような気がするが、最近は11月の前半からごそごそやっている店もある。これを経済指標的に読み解くことができるかもしれない……とかね。
まあ、あまり「メリット」など意識せずつらつら読んでも、それなりに面白い。例えばビックマック指数なんて考えたこともなかったけど「さもありなん」という感じだ。それにウェイトレス美人指数というのもなかなか笑える。原書では「雌ギツネ指数(Vixen Index)」となっているようだ。
牝狐指数とは、なかなか想像力をたくましくさせる指数だが、実は下世話なネタではなく、けっこう本質的な論点を含有している。この指標の読み解き方は簡単で、地元の何てことない食堂や居酒屋で働いているウェイトレスを観察してみて、目の覚めるような美人ばかりだと、景気はかなり暗い状況にあるということである。美人な女性(あるいはイケメンな男性)は、給料の高い華やかでオイシイ仕事で稼げるなら、何も近所のパッとしない店で働く必要はない……そういうことである。

余談

アメリカ人にとって「日銀短観」は「メジャーすぎない指標」になるようだ。そりゃそうだが、日銀短観を「地球上でもっとも包括的な経済指標」と評し、ころころ修正が入り信用ならない政府発表のGDPよりもこちらを優先すべきだというのは、なかなか面白い。しかし、それでも不況続きの日本への投資を「リスク評価:S」としているのは、その通りなんだけど悔しいなあ。