根本昌夫『[実践]小説教室 伝える、揺さぶる基本メソッド』

本屋で見かけて購入。
小説を書く力は右肩上がりに向上していくのではなく、停滞もすれば後退もする、また何かのきっかけで急に向上することもある。若人の方が良いとも年寄りの方が良いとも言い切れない。だから小説を書く適齢期というものはなく、よく読み、よく考え、よく書くことを続けるべきだ。そうすることで、小説家になれなくとも、考え方や本の読み方も変わってきて幸せになれる……といったことを主張している。だから基本的には「書き手があきらめない」ための指導をするそうで、そういうサポーティブな人柄が伝わってくる紙上レッスンである。
逆に言えば、即物的なアドバイスや体系的なアドバイスがあるわけではない。精神論というほどではないが、心構えに近いアドバイスも多いという印象を持った。帯の「次々と新人作家をデビューさせる文芸誌元編集長の紙上レッスン」という触れ込みや、書名の「基本メソッド」というキーワードに反応して本書を買った人は、やや肩すかしを食らうかもしれない。しかしこれにも一定の面白さはある。
なお本書では村上春樹の『海辺のカフカ』を読み解いていたが、ナカタさんは大江健三郎、「邪悪なもの」の正体はアメリカグローバリズムイスラム原理主義の戦い、それを止めようとした星野青年はイチロー、と読み解いていた。テクスト論的な読みとしては面白いのかもしれないが、イチローは関係ないと思うなあ。