インキュベ日記ベストセレクション2013

1年間の振り返りとして、2013年に読んだ本の中から特に印象深かったものを取り上げてみたい。

森博嗣のS&MシリーズとVシリーズ(特に『すべてがFになる』)

私にとっての2013年最大の発見は紛れもなく森博嗣だと言って良い。私にとってミステリはコナンと金田一少年という漫画のイメージしか無かったのだが、森博嗣のデビュー作『すべてがFになる』を読んで完全にハマってしまい、森博嗣の小説を20冊(S&Mシリーズを10冊、Vシリーズを10冊)も読んでしまった。どれも面白かったのだが、20冊も挙げるわけにはいかない。1冊だけ挙げるとするならば、やはりハマるきっかけとなった『すべてがFになる』を推したい。
S&MシリーズとVシリーズの後も少しずつ登場人物をオーバーラップさせながら四季シリーズ・Gシリーズ・Xシリーズと続いているのだが、現在は忙しさにかまけて読むのが止まってしまっている。今年は四季シリーズ以降も読んでいきたいし、他のミステリも読んでみたいなあ。

森博嗣『冷たい密室と博士たち』 - インキュベ日記
森博嗣『笑わない数学者』 - インキュベ日記
森博嗣『詩的私的ジャック』 - インキュベ日記
森博嗣『封印再度』 - インキュベ日記
森博嗣『幻惑の死と使途』 - インキュベ日記
森博嗣『夏のレプリカ』 - インキュベ日記
森博嗣『今はもうない』 - インキュベ日記
森博嗣『数奇にして模型』 - インキュベ日記
森博嗣『有限と微小のパン』 - インキュベ日記
森博嗣『黒猫の三角』 - インキュベ日記
森博嗣『人形式モナリザ』 - インキュベ日記
森博嗣『月は幽咽のデバイス』 - インキュベ日記
森博嗣『夢・出逢い・魔性』 - インキュベ日記
森博嗣『魔剣天翔』 - インキュベ日記
森博嗣『恋恋蓮歩の演習』 - インキュベ日記
森博嗣『六人の超音波科学者』 - インキュベ日記
森博嗣『捩れ屋敷の利鈍』 - インキュベ日記
森博嗣『朽ちる散る落ちる』 - インキュベ日記
森博嗣『赤緑黒白』 - インキュベ日記

小川一水『天冥の標Ⅵ 宿怨 PART3』

全10巻に及ぶ壮大なSF長編の第6巻。第6巻は非常に長くPART3まで膨れ上がっていたが、ついに第6巻も完結。そして物語を絶望が包み込んだ。第7巻は2013年12月20日に発売されたが、まだ読めていない。早く読まなきゃ……。

鈴木光司『リング』『らせん』『ループ』

このシリーズは、昔読んだ時は「結局リングがイチバン面白くて、その後はどんどんイマイチになってきたなあ」と思っていた。しかし十年以上ぶりに読み返してみて……今この作品に対する捉え方が初読時と全く異なっていることに驚かされている。これはホラーではない、意志の力と世界の関係性をモチーフとした一連の傑作SFである。貞子の映像のイメージが強すぎて「リング」シリーズにイロモノめいた印象を持っている方も多いだろうが、これは紛れもなく傑作なのだ。



村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

世界の終りやねじまき鳥に比べると小品かもしれないが、私は味わいのある作品だと思う。

ところで本書に対する賛否両論の嵐(主に「否」だが)を目の当たりにして、村上春樹のアンチは何故ああまでヒステリックなのだと思わずにはいられない。彼らの主張は「村上春樹の小説はつくづく下らないと思っているが、売れているから読んでみたらやっぱり下らなくてムカついた」というものと、「村上春樹の小説は下らないのに世間で評価される(あるいは売れる)のが気に食わない」というものと、「下らない村上春樹作品をファッション的に受容して過度に&無批判に持ち上げている村上春樹ファンの存在が気に食わない」という3点に要約されるのだが、正直こうした紋切り型のアンチの方がウザいよなと思う。

なお私は村上春樹の出版物は(翻訳を除いて)絶版も含めてほぼ全て読んできているが、村上春樹のアンチを説得しようとは思わないし、実際アンチと出会っても説得したことはない。まあミステリやSFならトリックや設定・世界観の巧拙を語り合うメリットもあるのだが、村上春樹の小説はそのような本ではないと思う。そもそも読書とは個人的な行為である。好きな人がいて、嫌いな人がいる。それで良いじゃないか。

木村博之『インフォグラフィックス 情報をデザインする視点と表現』

インフォグラフィックというものを本書で初めて知ったが、本書を読んで刺激を受けたのはインフォグラフィックそのものよりも、インフォグラフィックを作る前提となる「ピクトグラム」の解説部分である。ピクトグラムはビジネス・プレゼンテーションの世界においても物凄く可能性があると思った。

でも、図版集のようなピクトグラムの本や、単なる図解本としか思えないピクトグラムの本、面白いピクトグラムを集めてみましたという本はあるのだが、ビジネス・プレゼンテーションにおいてピクトグラムをどう活用していきましょうかという本は(色々と探しているのだが)寡聞にしてまだ見つけられていない。その意味で、本書はインフォグラフィックの入門書だけでなく、ピクトグラムの入門書としても、まだまだ利用価値があるので、何度も読み返している次第。

エリック・ワイナー『世界しあわせ紀行』

ジャーナリスト(ニューヨークタイムズの記者&全米公共ラジオの特派員)として散々訪れた「不幸な国」に嫌気がさした著者は、「幸せな国」を探して訪問し、幸せとは何か、幸せはどこにあるのかを考える……というアウトラインの紀行文。まずコンセプトが非常に面白かった上、訪れた10ヶ国(オランダ・スイス・ブータン・カタール・アイスランド・モルドバ・タイ・イギリスのスラウという町・インド・アメリカ)の中には必ずしも「幸せ」とは言い難い国も含まれていた。著者が色々なことを考えながら本書を作ってきたことが推し量れる。非常に優れた本で、他人にもオススメしたい。

ハル・ビュエル『ピュリツァー賞 受賞写真 全記録』

これは私が(覚えている限り)人生で初めて買った写真集。資料的価値も極めて高く、とにかく手放せない本になった。

月刊美術・編『写実画のすごい世界 限りなく「本物(リアル)」な女性たち』、深堀隆介『金魚養画場』

どちらも一見写真と見紛うばかりの極めて精巧な画である。前者はそのものズバリ「写実画」というジャンルだそうで、主に人物画、特に女性をモチーフとすることが多いようだ。後者は金魚の絵を徹底的に描き続ける画家の作品集なのだが、アクリル樹脂を使うなどして、この透明感と立体感を表現することに成功している。画集を見ていて思ったのは、三次元のものを二次元に切り取るということの面白さと難しさである。今年も写真集や画集については面白そうなものが無いか探していきたい。