森秀明『外資系コンサルの資料作成術』

外資系コンサルのスライド作成術―図解表現23のテクニック
山口周『外資系コンサルのスライド作成術』という本がある。「あれ、1年も経たないうちにぜんぜん違う雰囲気の装丁に改訂したなあ」と思い本書を手に取ったら、出版社も著者も別物だった。
正直「二番煎じ」だと最初は思った。『買ってはいけない』の二番煎じとしての『「買ってはいけない」は買ってはいけない』とか、『チーズはどこへ消えた?』の二番煎じとしての『チーズは探すな!』や『バターはどこへ溶けた?』ほど露骨ではなくても、明らかに「練りに練った企画じゃないよね」という「安易なブームへの便乗」として企画・出版された本は数多い。例えば、数年前のフレームワーク本の乱発。例えば、コーチングやファシリテーション。それらのノウハウは決して無益なものではないのだけれど、出版社や著者が短期的な視点で濫発した結果、それらの言葉やノウハウに手垢が付き、どの本を読んでも大して変わらないよねとなり、そして消え去るのである。そういう読者を馬鹿にした行為は止めた方が出版者自身のためにもなるよと思う。もちろん本書を読み終えた今では必ずしも「安易なブームへの便乗」とは思わないんだけど、山口周『外資系コンサルのスライド作成術』がまた凄く良くて何度か読み返しているし、Amazonでも結構な数のレビューがついている等、相応の評価を受けた本であるため、当初はそう思ってしまった。
……そんなこんなで、パラパラ見る限りでは悪くなさそうだけどそんな本を買って良いだろうかという後ろ向きな第一印象、というか変な雑音が入った状態で購入し、読み始めることになった次第。
グローバルファームで蓄積・共有されてきたノウハウを惜しげもなく開陳しますというアプローチ自体が既に幾つかの前例があるため、正直コンセプト自体にあまり目新しさは無いのだけれど、内容は決して悪くない。というか(一読した限りでは)けっこう良い。最近また忙しさに甘えているから、この本を手に、また資料作成のスキルを棚卸しして自身を鍛えようと思わせるに十分。また具体的な方法論だけでなく読んでいて「なるほど」と思わせられる箇所もある。以下などは、まさに自分自身が働く中で感じていることだ。

 ビジネスに求められる意思決定の品質とスピードが変化したことに伴って、資料作成の流れも大きく変化してきました。
 chart61*1の上半分は、これまで常識とされてきた資料作成方法です。そこではまず、相手との対話を契機として資料作成の必要性が生まれます。そして一定の期間を経て作成された資料が相手に提示され、説明されるという流れになります。したがって資料作成者と資料依頼者が直接会話を交わす機会は多くありません。最初と最後の2回しかないということも珍しくありません。(略)
 chart61の下半分には、いま求められている資料作成の流れがまとめられています。ここでは、資料作成者と資料依頼者の対話の頻度はずっと多くなります。資料作成を正式に依頼されてから相手に資料を渡すまでの間には、ある程度の時間があります。その時間の中で相手との非公式な対話をどれだけ持てるかが重要になってきます。それは、依頼者のニーズが時々刻々と変化し、その変化を作成する資料の中に取り入れることが求められるからです。
 そのような今日の資料作成においては、全体像を持って少しずつ資料を作成していきます。(略)

本書では、非公式な対話の頻度を上げることで変化の速度に対応することの重要性が挙げられている。それに加えて、私は、体系的に整理された資料を提示することで、資料依頼者の頭の中自体が整理され、考えが進化する、ということも挙げておきたい。資料依頼者が資料作成を依頼する時、必ずしもその人の考えは綺麗に整理されているわけではない。ロジカルで説得的なスライドを前にすると、なるほど自分は本当はこういうことが言いたかったのか、こういう前提があるなら結論はこうだ、この図を見る限りそもそも前提が間違っていた……ということが発生する。よく「プロは相手のニーズを満たすだけではなく超えることが云々」といった物言いがなされるが、ビジネスの現場では、そもそもニーズそのものが変化・進化することが往々にして発生する。相手の今のニーズをベースにするのではなく、ニーズそのものを適切に進化させることが、プロとして求められるコミュニケーションの要件のひとつになるような気がする。

*1:図は引用し切れないので興味ある方は買ってください