鎌谷悠希『少年ノート』1巻

少年ノート(1) (モーニング KC)

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私は作品のモチーフとして「喪われようとしているもの」や「喪われてしまったもの」に、強く惹かれるところがあるようだ。あれほどのアンチを抱える村上春樹に私が惹かれ続けるのも、彼の主人公は、ここではないどこかへ行って戻ってくる時に何かを喪うことが多い気がする。
いや、より正確に言うと、これはモチーフというよりはテーマかもしれないが、「喪われようとしているもの」や「喪われてしまったもの」に対する人の在り様に、強く惹かれる。例えば、マイ・ベスト・ノベルのベスト5には必ず入ると思われる『キリンヤガ』は、絶滅の危機に瀕したキクユ族の伝統を守るためにテクノロジーを駆使して(その矛盾をも飲み込んで)孤高な戦いを続ける老人を描いたSFである。最近テレビアニメで最も「やられた!」と思ったのは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』だが、これは高校生にして既に老後のように「終わってしまった」主人公が、喪われた過去を見つめ、現在に再び目を向ける物語だ。
前置きが長くなったけれど、そうした文脈では本作もまた私にとって「ド真ん中ストレート」な作品と言って良い。ボーイソプラノという、声変わりによって避け難く喪われる才能を描いた作品である。主人公は中学1年生の少年。その歌声は天才的に美しいが、「音」に敏感なあまり周囲の音や声を聞くだけで気分が悪くなるといった、危ういほどに純粋な才能を持っている。そしてそうした「才能」が、「合唱」という団体戦の極地とも言える競技に取り組んでいく。
1巻はまだ導入と言って良いが、色々な構図が早くも透けて見えて、とにかく面白い。絵も巧いしね。