NHK「プロフェッショナル」制作班『「プロフェッショナル 仕事の流儀」決定版 運命を変えた33の言葉』

プロフェッショナル 仕事の流儀 運命を変えた33の言葉 (NHK出版新書 414)

プロフェッショナル 仕事の流儀 運命を変えた33の言葉 (NHK出版新書 414)

「プロフェッショナル 仕事の流儀」決定版 人生と仕事を変えた57の言葉 (NHK出版新書 362) プロフェッショナル 仕事の流儀 運命を変えた33の言葉 (NHK出版新書 414)
スガシカオのテーマ曲で有名なNHKのテレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」の書籍版。といっても番組の内容を丸々書籍化したのではなく、プロフェッショナルが衝撃を受けたり運命を変えさせられたりした言葉を、そのエピソードと共に編集するという構成になっている。
「人生と仕事を変えた57の言葉」と「運命を変えた33の言葉」が姉妹本なのだが、読み終えた直後、友人にプレゼントしたので、感想はまとめて書くことにする。2冊合わせると90もの「名言」が出てくるため正直やや食傷気味であるが、特に心を揺さぶられたのは2つである。

冥府魔道を行く

ひとつは、心臓外科医・天野篤が胸に抱く「冥府魔道を行く」という言葉。
心臓外科医の仕事は、自分の失敗が即、患者の命に重大な影響を及ぼす。そのプレッシャーの厳しさ・仕事のタフさは、並のサラリーマンや医師とは比べ物になるまい。常識的には、仕事がタフになればなるほど、どうやって息抜きをするか、どうやって休息を取るかが重要になってくるだろう。勝負は一瞬一瞬でも、職業人生は30年40年と続くからである。1年で燃え尽きてしまっては何にもならない。しかし彼はある時から平日は病院に泊まり込み、終末のみ家に帰るようになる。徹底的にそのプレッシャーを引き受け、働くようになるのである。そこまでして技術を磨き込み、患者の命を引き受け、困難な手術に取り組み続けている。しかし彼は敢えて、用語的にも道徳的にも洗練されていない強い調子の言葉で表現しているのだ。やや中二病的な響きがあるが、それでもなお、その覚悟の強さを巧く表した言葉だと思う。

まだ、山は降りていない。登っている

もう一つは、訪問看護師・秋山正子が胸に抱く「まだ、山は降りていない。登っている」という言葉。*1
これだけでは何のことだかわからない言葉なので背景を説明すると、訪問看護師とは、病気を抱えながらも自宅で暮らしたいという人々を支える仕事であるが、彼女はある時、余命3ヶ月と診断された40代半ばのがん患者を受け持つ。がんで余命3ヶ月というのは、素人考えでは、3ヶ月が1年になることはあるかもしれないが、既に(がんの転移等により)3ヶ月が30年になることが望めるステージは既に過ぎているように思う。つまり長くても数年以内にがんで命を落とすことは避け得ない患者である。そのような患者に対しては、看護師は単に医療面や衛生面の世話をすれば良いというものではなく、旅立つ者や見送る者に対する心のケアも重要になってくると私は思う。彼女もやはり、その患者には、苦しんだまま亡くなるのではなく、家族や自分に弱音でも何でもぶつけてもらって、楽になってもらいたいと願う。しかし彼は無口で我慢強い性格のため、世話をしていても心の内どころか世間話すらほとんど話してくれない。
その内に、その患者は寝たきりになり、それでも我慢強く、弱音も心のうちも愚痴も吐かないし、世間話すらほとんどしない。そして、その患者は登山が好きだと知った彼女は、人生を登山にたとえ、彼に話しかける。もう山を降りているところなのだから、荷物を下ろして楽になってはどうですか、と。*2
すると普段は雑談にすら応じない彼が、はっきりと「まだ、山は降りていない。登っている」と答える。それを聞いた彼女は、彼が今もなお強い気持ちで病と向き合っていること、そして終末期医療と言っても単に愚痴や弱音を吐かせて楽になってもらうことだけが患者のケアではなく、一人ひとりのそれぞれの「最期」に向き合うことが重要なのだと気づかされる……とまあ、そういうアウトラインだったような気がする。やや「出来過ぎた話」だと思うが、プロとして長年仕事をすれば、こういうエピソードに遭遇することもあるんだろうな。

*1:本が手元に無いため正確じゃないかも……。

*2:これも本が手元に無いため正確な表現じゃないかも……