松本大洋『Sunny』3巻

松本大洋が「自分の子供の頃を描きたい」と始めた漫画。

本作の主人公は、施設で暮らす子供たちだ。彼ら・彼女らは、親と死別した、経済的その他の理由で親と暮らせない、そうした満たされない子供たちである。Wikipediaによれば松本大洋も一時期そうした施設で暮らしていたことがあったらしい。自伝というわけでもないが、自身のルーツを辿る非常に重要な作品なのだろう。

ただし1〜2巻を読んだ段階では「まあまあ」程度の作品だなと思い、そのまま続刊を買うこともなく、しばらくして1〜2巻も手放してしまっていた。それから1年以上は経ったと思うが、先日たまたま本屋で3巻を見かけて購入してみたところ……印象が全く変わっていた。

これは「まあまあ」などではない、「大傑作」だ!

本作には『ZERO』や『ピンポン』や『GOGOモンスター』のような尖ったところもなければ、『花男』や『鉄コン筋クリート』のようなキャッチーさもない。抑制された、地味な作品といって良いだろう。しかし本作を読みながら……気がつけば私は涙をこぼしていた。

子供たちは決して幸せではない。たとえ毎日が楽しくても、誰も施設で暮らしたいとは思わない。家族に虐待されていたのならともかく、家族が好きなら、家で暮らしたい、家族と暮らしたいと思うのが自然である。そしてそうした子供たちが施設で暮らしている。もちろん、施設の大人たちは、そんなことは百も承知で、彼ら・彼女らを育てている。

読みながら自分の中に溢れてくる、このあたたかい感情を何と呼べば良いのか?

愛、親切、情、善意……全て違う気がする。1巻と2巻は既に買い戻し、何度となく読み返した。しかしピッタリ来る言葉は思いつかない。4巻や、もうすぐ発売される5巻を読めば、その言葉が見つかるだろうか?