ヤマシタトモコ『ひばりの朝』全2巻

ひばりの朝 1 (Feelコミックス)

ひばりの朝 1 (Feelコミックス)

ひばりの朝 1 (Feelコミックス) ひばりの朝 2 (Feelコミックス)
ネタバレします。(この漫画の感想を書くには、結末にまで踏み込んだネタバレをするしかないと判断)
14歳・中学2年生ながら、周囲の人間に性的なものを感じさせずにはいられない、肉感的な少女が主人公。発売当初、店頭POPやWEBでかなり煽られていたため、気にはなっていたものの、何となく買わないまま今に至っていた。
で、いざ読んでみると、ヤマシタトモコが描きそうなオシャレ系のエロはなく、かといって榎本俊二的な下品エロもなく、エロ漫画のような直接的なエロ描写もなく、グロもない。そもそも主人公の胸の谷間すら出てこないわけで、主人公は強姦されていたわけでもなく、開放的にエロを追求するわけでもない。実は本当にただの幼い14歳の少女(というか思春期に入りたての子供)に過ぎないわけだが、それを他人が、自分に都合の良いようにストーリーを立てて彼女を見て、彼女に劣情したり嫌ったり恋心を抱いたりする。
で、気づけば、確かに彼女は具体的には何にも被害に遭っていないわけだが、どうも彼女の父親に性的ないたずらをされそうというか、そういう静かで嫌な感じの緊張感が近づいてきていることが作中で示される。しかし友達も周囲の大人も、皆が無理解や無関心や無自覚や悪意(のようなもの)を撒き散らす。もちろん中には心配してくれる人もいたのだが、それでも誰も決して彼女を愛してはいないし、助けもしないのである。
その後、彼女が父親から性的虐待を受けてしまったかどうかの判断は読者に委ねられる。曖昧な描写のまま、彼女は息を止めて中学生活の残りと高校生活を送り、高校の卒業式の日に家を出るのである。
作品を読んでいくうち、「怒り」や「やるせなさ」に似た、よくわからない感情が澱のように溜まっていく作品。