川上昌直『課金ポイントを変える利益モデルの方程式』

スライウォツキーの『ザ・プロフィット』を読んで以来、ビジネスモデル、というより利益モデルを因数分解した本(または似たコンセプトの本)があれば、できるだけ手に取るようにしている。その意味で、本書は私の興味の「ど真ん中」だったのだが、どうも十分に整理し切れていない気がするなあ。わたしが理解しきれていないだけかもしれない。特に気になったのがChapter3。Chapter3に幾つもの図表や考え方が載っているが、それらをもう少し統合して提示してくれないと、はっきり言って使えない。以前読んだ本に載っていた「顧客ロックイン戦略」の方が、顧客のロックイン限定ではあるものの網羅的で、継続的な利益モデルを考える時にも使いやすいように思った。(野村総合研究所コンサルティング・セクター『戦略実践ノート』 - インキュベ日記

総論では若干「?」と感じたのが、役立ちそうなところが幾つかあるので、そこはメモしておく。

ひとつは、縦軸を儲けの源泉(課金タイミングのようなニュアンスか?)、横軸を課金方法としてまとめた表について。言葉の使い方も統一されていないし(回収・徴収とか使用・利用とか課金方法・課金とか)、内容面についても色々と言いたいが、少なくとも議論のたたき台にはなる。

(a)直接販売:製品やサービスの提供と、顧客の支払いが対応している。
(b)販売後サービス:取扱いが複雑な製品の販売後のサービスで儲ける。
(c)コンテンツ:コンテンツを提供した媒体(WEBや雑誌)で儲ける。
(d)ファイナンス:顧客への金融サービスなど、補助サービスで儲ける。
(e)ロイヤルティ:知的財産による他者の権利利用に伴うサービスで儲ける。

(ア)商品対価:商品の販売と引き換えに代金を回収する、最も一般的な課金方法。
(イ)固定制:使用量にかかわらず、固定料金を徴収する課金方法。
(ウ)従量制:利用した量に応じた課金方法。
(エ)マークアップ:利益を加えて再販売する課金方法。
(オ)紹介料(コミッション):紹介によって手数料を得る課金方法。
(カ)広告料:他社の広告による課金。

もうひとつは、本書の帯にも載っていた「儲け方」の8ロジック。

8タイプ 誰に(Who) 何を(What) どのように(How)
ロジックA 全員から儲ける 全商品で儲ける 同時に儲ける
ロジックB 全員から儲ける 全商品で儲ける 時間差で儲ける
ロジックC 全員から儲ける 儲ける商品と儲けない商品 同時に儲ける
ロジックD 全員から儲ける 儲ける商品と儲けない商品 時間差で儲ける
ロジックE 儲ける相手と儲けない相手 全商品で儲ける 同時に儲ける
ロジックF 儲ける相手と儲けない相手 全商品で儲ける 時間差で儲ける
ロジックG 儲ける相手と儲けない相手 儲ける商品と儲けない商品 同時に儲ける
ロジックH 儲ける相手と儲けない相手 儲ける商品と儲けない商品 時間差で儲ける

この8ロジックそれぞれに以下のような見出しを付け、解説している。

  • ロジックA:最強にして最難関の「単品売り切り型」
  • ロジックB:顧客とのおつきあいを前提とする儲け方
  • ロジックC:損して得取る収穫法
  • ロジックD:手軽に興味を持ってもらいお付き合いを長くとる
  • ロジックE:同じサービスでも人によって中身が異なる
  • ロジックF:お金を支払ってでもアップグレードしたくなる
  • ロジックG:お付き合いする理由は顧客によって異なる
  • ロジックH:複雑故に模倣困難な儲け方

こちらは、いざ引用して思ったのだが、あまりピンと来なかった。そもそも著者が自分で書いた課金方法の表とすら整合していない。例えば、著者が整理した課金方法の「固定制」と「従量制」の違いは、ここには全く表現できていない。

著者は研究者であるため整理過程で出版したのかもしれないが、利益モデルを解明したいのなら、もっと精緻に整理してから出してほしいと思った。現場がすぐ使えるフレームを提示するなら、もっとシンプルに、使うべき視点に絞ったフレームワークを設計すべき。帯には「チャレンジャーが一人勝ちするための」と書いていたが、本書で一人勝ちするのは極めて困難。