インキュベ日記

書評3100冊・漫画評5500冊・DVD評500枚の「質より量」な記録サイト(稀に質も重視)

インキュベ日記ベストセレクション2018

十五の夏 上 (幻冬舎単行本) 十五の夏 下 (幻冬舎単行本) 国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―(新潮文庫) スレイヤーズ16 アテッサの邂逅 スレイヤーズ (新装版) (富士見ファンタジア文庫) すべての男は消耗品である。VOL.1?VOL.13: 1984年8月?2013年9月 連載30周年記念・完全版 機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA) バビロン1 ―女― (講談社タイガ) さよなら妖精 (創元推理文庫) 世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事 世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか??経営における「アート」と「サイエンス」? (光文社新書) 雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行―(新潮文庫)
1年間の振り返りとして、2018年に読んだ本の中から特に印象深かったものを取り上げてみたい。

佐藤優『十五の夏』

あとから振り返ってみると、今年は、3つの特徴があったように思う。ひとつは、スレイヤーズを読み返したこと。次が、30年にも及ぶ村上龍のエッセイ『すべての男は消耗品である。』を通して読んだこと。そして最後が、佐藤優の著書の読み込みである。佐藤優という人は、記憶力が半端じゃないなと思う。数十年も前の出来事を昨日のようにリアルに語ってみせることができる。しかも圧倒的に知性があり、色々な人と面白いやり取りをしている。なので体験談を語るだけの自叙伝シリーズが大量に出ているのだが、それがどれも面白いという。中でもイチオシは、今年観光された『十五の夏』である。ごくフツーの家庭の息子だった佐藤優が、高校一年生の夏に、独りで東欧・ソ連を回るという、はっきり言って物凄い本である。わたしの中では、数ある紀行文の中でも五本、いや三本の指に入ると思う。
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佐藤優『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』

佐藤優の本からもう一冊。自叙伝シリーズは、わたしの知る限り、『先生と私』『埼玉県立浦和高校 人生力を伸ばす浦高の極意』『十五の夏』『私のマルクス』『甦る怪物 私のマルクス ロシア篇』『同志社大学神学部』『紳士協定 私のイギリス物語』『亡命者の古書店 続・私のイギリス物語』『自壊する帝国』と十冊近くも出ている(埼玉県立浦和高校は厳密に言うと自叙伝じゃないかも)。

『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』は、外交官としてのキャリアの終わりを描いた自叙伝であると同時に、「国策捜査」という言葉を広めたノンフィクション上の傑作でもある。そして佐藤優の作家としてのデビュー作でもある。『国家の罠』から読むのも良いのだが、自叙伝を順に追っていくのも面白いと思う。とはいえ佐藤優の自叙伝を読みたいという人は、佐藤優という人間の異能ぶりに関心を持たねば始まらないので、やはり『国家の罠』から読むのが良いのかな。いやー、しかし、昔ワイドショーで顔を見ていた頃は「ムネオと一緒に悪いことをしていた外交官」という印象しかなかった。報道の印象操作は怖い。
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神坂一『スレイヤーズ 16.アテッサの邂逅』

15巻で完結したスレイヤーズの続編。なんかもう安定感しか無い。昔は下手糞な文章だなーと思ってたが、実のところ神坂一より下手糞な作家なんて腐るほどいることもわかり、その辺も気にならなくなり、素直に楽しめるようになった。
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村上龍『すべての男は消耗品である。』シリーズ

初期の笑っちゃうような低レベルなエッセイから、ひたすらサルサと中田について語っている中期のエッセイ、絶対エロ雑誌買ってるような奴らはわかんないよねという「閉塞感」や「甘え」をテーマとした中期から後期にかけての一連のエッセイまで、ほんとうに振れ幅が大きい。しかしわたしは読んで良かった。感想を書くだけでも熱くなっている自分がいる。この値段で読めるならほんとおすすめ。
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月村了衛『機龍警察〔完全版〕』『機龍警察 自爆条項〔完全版〕』『機龍警察 暗黒市場』『機龍警察 未亡旅団』『機龍警察 火宅』『機龍警察 狼眼殺手』

現代版パトレイバーというか、シリアス版パトレイバーというか。この手のSF的なギミックの入った作品は大好物だ。まずはシリーズ第1作の『機龍警察〔完全版〕』を読むべきだが、どんどん面白くなるので、ちょっとでもピンときた方はぜひ続きを買ってほしい。
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野崎まど『バビロン 1 -女-』『バビロン 2 -死-』『バビロン 3 -終-』

野崎まどは全体的にはライトな雰囲気のある書き手で、SFとライトノベルの中間みたいな作風という印象があった。しかし最近は『know』や『正解するカド』のようなゴリッとしたSFを書いていた。本作はSFではないく、ハードボイルド調のミステリで、やはりライトな雰囲気はない。東京地検特捜部の検事が主人公で、いわゆる巨悪を追っていくタイプの作品なのだが、とにかく背筋が凍る。野崎まどは「天才」を書くのが好きというか得意だったのだが、本作で出てくるのはいわば「悪の天才」である。主人公がどれだけ頑張っても追いつけず、翻弄され、そして読み手の背筋が寒くなる。3で「終」とナンバリングされているが、ストーリー的には4もある雰囲気なので、いつ発売されるかなーと首をかなり長くして待っている。
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米澤穂信『さよなら妖精』『王とサーカス』『真実の10メートル手前』

太刀洗万智という登場人物のシリーズ。早く古典部の続き書けよと思う一方、このシリーズも面白かったりして、もう米澤穂信が3人いたらいいのにと思う今日この頃。古典部シリーズも太刀洗万智シリーズも、どちらもビターなエピソードが多いのだが、古典部シリーズがあくまでも思春期の悩みや人間関係におけるビターな味わいなのに対して、こちらは政治情勢などを勘案した社会的なビター。どっちも面白い。
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津川友介『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』

この本、実は発売前から何となく「売れるんじゃないかな」「話題になるんじゃないかな」と着目していたのだが、予想通り、発売後とてつもなくブームになった。しかしそれも頷ける内容だ。食生活については、とにかくいろいろな人がいろいろなことを言いまくっているが、結局のところ個人の体験談か、限られたシンパに対する指導の結果に過ぎないことが多い。そのいずれが正しいのかはよくわからないから、とにかく、科学的なエビデンスがしっかりしている食生活をすることにしよう、というのが本書の言い分である。わたしはこれにほぼ同意する。

「ほぼ」と書いたのは、まあエビデンスがないものであっても色々と判断して良いと思うものを取り入れるぐらいの柔軟性は欲しいという意味である。具体的には、海藻類は日本ほど多く食べる地域は少なく、あまりエビデンスが十分ではないようだ。きのこ類もそうかもしれない。しかしおいしいし栄養があることはわかっているし、何より好きだから、わたしはわたしの判断で食べよう、ということだ。
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山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』

詳しくは、下からリンクを辿ってわたしの感想を読んでもらいたいのだが、コンプガチャやキュレーションメディアに対する山口周の指摘には唸らされた。わたしがなぜ、GoogleやAmazonといった世界的な(元)スタートアップ企業と、日本のネットベンチャーに対する「格」の違いを感じてしまうのか? なぜわたしがコンプガチャやキュレーションメディアの商法が卑しいと思ってしまうのか? そして規制された後も彼らがまた「やらかしてしまう」と思うのか? そのもやもやとした考えに対して、山口周は明確に書いてくれている。彼らは「美意識に代表されるような内部的な規範が、全く機能していない」と。

わたしはAmazonもGoogleもAppleも、問題はあると思う。しかし少なくとも、とにかく売れれば勝ちではなく、価値ある社会を目指して起業し、それを目指すための確固たる規範があると思う。90年代後半のGoogleの起業直後の理念は、未だにブレていない。Appleの(というよりジョブズが目指した)機能美という価値観もブレていない。わたしたちは、彼らが重視している価値観をイメージできるのである。一方、DeNAやらグリーやらその他大勢の日本のネットベンチャーが重視している価値観を、我々はほとんど感じ取ることができない。それが日本のベンチャーと世界のベンチャーの差だと思っていたが、本書を読んで考えが変わった。感じ取ることが出来ないのではなく、単に、美意識がないのである。だから卑しいビジネスを平気でやってしまう。
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村上春樹『雨天炎天』

何度か感想を書いていた気もするが、見ると書いていなかったので改めて書いたもの。わたしにとって、村上春樹の中で最も好きな作品のひとつであり、紀行文の中で最も好きな作品のひとつである。大推薦。
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