リチャード・P・ルメルト『良い戦略、悪い戦略』

良い戦略、悪い戦略

良い戦略、悪い戦略

序章から引用。

 少なからぬ人が、戦略とは全方位を見据えた全体図であって、何か特定の具体的な行動とは別物だと考えている。だが戦略をそのようにあいまいに幅広く定義すると、「戦略」と「実行」が断絶してしまう。断絶していいのだと言う人もいるかもしれないが、それでは戦略策定は空回りする車輪と変わらない。実際、「戦略」に関する不満はここに集中している。(略)
「実行面に問題がある」と嘆く経営者は、たいていは戦略と目標設定を混同している。戦略を立てるつもりで業績目標を立てているケースは珍しくない。(略)戦略とは、組織が前に進むにはどうしたらよいかを示すものである。戦略を立てるとは、組織にとって良いこと、好ましいことをどうやって実現するかを考えることである。

 良い戦略には、しっかりした論理構造がある。私はこれを「カーネル(核)」と呼んでいる。戦略のカーネルは、診断、基本方針、行動の三つの要素で構成される。状況を診断して問題点を明らかにし、それにどう対処するかを基本方針として示す。これは道しるべのようなもので、方向は示すがこまかい道順は教えない。この基本方針の下で意思統一を図り、リソースを投入し、一貫した行動をとる。

著者は幾つかの表現で本書の目的や意義を語っているが、私なりに端的にまとめると、2つである。すなわち、ひとつは「戦略」と「(一般に戦略とされているが)戦略でないもの」の境目を明確にすること。もうひとつは「良い戦略」と「悪い戦略」の境目を明確にすると共に、良い戦略の「構成要素(著者の言うカーネル)」を明確にすること。
この2つについて考えを深めたい方は、ぜひ本書を読むべきである。

余談

訳者あとがきから引用。

 戦略とは、「こうなったらいいなあ」という漠然とした期待を表現するものではなく、難局に直面するなど具体的な課題を前にして行動を指し示すものでなければならない。だから、戦略とはあくまで必要に応じて立てるべきものであって、予算編成とセットにして年中行事よろしく戦略を立てるような慣習はおかしいと(著者は)いう。このように戦略の基本を鋭く突いて間然するところがないのが教授の身上で、「ストラテジスト中のストラテジスト」と称される所以でもある。

予算を立てるために戦略を立てるというのは、私も確かに本末転倒だなと思う。
加えて不思議なのが、予算制度そのものである。予算制度というのは、未だにわかるようでわからない。一般的には、経営企画部などの予算担当部署は、関連部署を巻き込んで、年度予算(12ヶ月の予算)を3〜4ヶ月かけて作成し、中期経営計画(36ヶ月の予算)を5〜7ヶ月程度かけて作成している。つまり担当によっては、1年間の活動のざっと20〜30%を単年度と3ヶ年の計画の立案に延々費やしていることになる。私は予算が不要と断じるほどこれらの業務に明るいわけではないが、今の予算制度は冷静に考えるとなかなか奇妙である。あまりにも予算編成に費やすコストが大きすぎるような気もする。かけたコストとリターンを天秤にかけた場合、果たしてどの程度、企業経営に寄与しているのだろうか?
しかし脱予算経営や予算不要論という発想が10〜15年前に出たと聞くが、結局あまり大きなムーブメントになったとは聞かない。