羽生章洋『はじめよう! 要件定義』

はじめよう!  要件定義 ~ビギナーからベテランまで

はじめよう! 要件定義 ~ビギナーからベテランまで

副題に「ビギナーからベテランまで」とあるが、「発注者から受注者(ベンダー)まで」と読み替えても良い。しかもここでの「発注者」は「情報システム部門」だけでなく「業務部門」も含まれる。ここまでシンプルに書いてくれていると、本書を片手に、業務部門・情報システム部門・ベンダーの3者が同じ共通理解で要件定義を進めることができるので、凄く良い。
さて、本書を読んで特徴的だと思ったのが、本書は要件定義の本なのだが、要件定義に入る前の準備作業的なタスクの説明に、かなり力を入れていることである。
確かに、要件定義と言ってもプロジェクトによって状況は千差万別で、例えば、既に業務部門としてのシステムに対する「要求」が適切に取りまとめられているプロジェクトがある。その場合、あとは情報システム部門+ベンダーとやり取りして「要件」として掘り下げて合意すれば良い。一方で、そもそも自分たちがどんなシステムを作りたいのか、そしてそれを決めるために何をすれば良いかすら業務部門の方で全く理解していないプロジェクトもある。その場合、業務サイドの要求の洗い出しとシステムサイドによる要件への落とし込みが同時平行で行われる。こちらのケースの方がずっと多いだろう。
特に後者のような要件定義をあまり経験したことのない方々に対しては、本書を読むことで、自分たちがこういうことを決めたり要求として出せば、情報システム部やベンダーが突っ返したり嫌味を言ったりせずに、きちんと「要件」として取りまとめてくれますよ、みたいなことがすっとわかる。
一方、情報システム部やベンダーの要件定義経験者についても、「設計か?」と見紛うほど細部に入り込んだり、逆にあれもこれもと文書を取りまとめた割にはふわふわしすぎて、結局何が要件のコアなのかがさっぱりわからない要件定義書を作っている……という苦い経験が頭をよぎる方は、本書を読んで、冷静に要件定義を振り返ってみるのも重要だと思う。