『文藝別冊/KAWADE夢ムック ゆうきまさみ 異端のまま王道を往く』

ゆうきまさみ 異端のまま王道を往く (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

ゆうきまさみ 異端のまま王道を往く (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

最も後進に大きな影響を与えた漫画家と言えば誰だろう? 手塚治虫だろうか。
最も愛された作品を作った漫画家は、藤子・F・不二雄かもしれない。
大友克洋は効果線のような漫画的技法を使わず、あまりにも精密な「止め絵」で逆説的に「動き」のダイナミズムを表現した。漫画家に与えた衝撃は計り知れなかったと言われる。
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しかしながら、既に漫画家としての現役を退いたレジェンドではなく、今なお傑作を生み出し続ける「現役」のレジェンド漫画家とは誰かと問われた時、私はサンデーが生み出した2人の怪物、高橋留美子とゆうきまさみの2人を挙げたい。高橋留美子は、日常と非日常、凡人と奇人、男と女、人間と妖怪、生と死などなど、あらゆる「マージナル」な存在を描き続けている現代の大巨人だと私は個人的に考えているのだが、この人については別の機会に譲りたい。今日は、もう一人のレジェンド、ゆうきまさみについてである。
ゆうきまさみは元々アニメのパロディから漫画家としてのキャリアを始めたようなのだが、『究極超人あ〜る』『機動警察パトレイバー』『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』『鉄腕バーディー』『白暮のクロニクル』『でぃす×こみ』と、高品質な連載作品を生み出し続けている。ストーリー漫画ではない『あ〜る』は(実は)最近読んだのであまり深くは知らないが、少なくとも『パトレイバー』『じゃじゃ馬』『バーディー』といったストーリー漫画については、ほとんど捨てシーンが存在しないのではないかと思うほどに物語の完成度が高い。でもゆうきまさみにインタビューをすると、ゆうきまさみはずっと週刊連載のタイトスケジュールでギリギリまでネームを作っていることもあり、その場しのぎ、思いつき、行き当たりばったり、キャラが勝手に動き出して自分の思惑と異なる展開を見せたことも多い……と述べるのである。いざ作品を通して読み返すと、とてもそうは思えない(計算し尽くされたプロットに見える)のだけどね。
登場人物も極めて魅力的だ。まず主人公(『パトレイバー』の遊馬、『じゃじゃ馬』の駿平、『バーディー』のつとむ)は、決して完璧超人ではない。空気を読めず相手を傷つけたり、向こう見ずだったり、能力が不足していたり、選択を間違えたり、モノに八つ当たりしたり……と、むしろ不完全な存在である。あまりに凡庸すぎて安易に感情移入できないことすらある。しかし、だからこそ彼ら主人公は徹底的に「等身大」だと言える。そして主人公の脇役やライバル、これがまた魅力が半端ない。彼(女)たちがしっかりと描写され、生きているのだ。ゆうきまさみの真骨頂はその「群像劇」にあると言える。
『パトレイバー』『じゃじゃ馬』『バーディー』それから今連載中の『白暮のクロニクル』と、もう何十回と読み返しているが、未だに新たな発見と鮮烈な感動があり、全く飽きることがない。
……前置きが長くなり過ぎた。
本題に戻るが、本書は丸々1冊を費やし、そんな「ゆうきまさみ」を特集した本である。
この手のムック本には不可欠な、3万字に及ぶゆうきまさみのロングインタビューや主要作品の解説・年表は当然載っている。しかしそれだけではなく、高橋留美子・安野モヨコ・藤田和日郎・とり・みき・出渕裕・高田明美・こざき亜衣・松浦だるま・吉田戦車による特別寄稿、羽海野チカ×荒川弘×ゆうきまさみの対談、とまとあき×川村万梨阿×ゆうきまさみの対談、小川一水・森博嗣・京極夏彦・前田司郎によるエッセイ、過去作品のパロディ分析、仕事場紹介、白暮のクロニクルのネーム、単行本未収録の作品、脇役名鑑などなど、ファンが涎を垂らして気絶するような、あまりにも豪華なコンテンツとなっている。
ゆうきまさみのファンなら必読!