三宅孝之+島崎崇『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略』

3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略

3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略

前置き

著者の2人が所属するドリームインキュベータ(DI)は、広義にはいわゆる戦略コンサルティングファームである。戦略コンサルティングファームは名前の通り「戦略」にフォーカスしたファームなのだが、今は大上段の全社戦略(企業戦略)をペーパーで御指南するだけで食べていけるファームはほとんどない。だから戦略の「立案」だけではなく「実行」にもフォーカスするという戦略ファームも出てきており、DIもそのひとつだと私は思う。
上記を踏まえ、もう一度、具体的に、戦略コンサルティングとは何だろうか?
ここからは戦略コンサルティングファーム「ではない」コンサルティングファームに所属する私なりの考えだが、私は「クライアントの損益を大きくそして直接的に改善するためのコンサルティング」ではないかと考えている。つまりPLにヒットするコンサルティングだ。プロジェクトの種類としては、具体的には以下が該当する。

  • 事業戦略
  • 商品戦略
  • マーケティング
  • 営業改革
  • 事務BPR
  • コスト削減

上に行くほどピカピカの「戦略コンサルティングらしい戦略コンサルティング」である。一方、下に行くほどマネジメントコンサルティングとの境界は曖昧になり、非戦略コンサルティングファームやSIerとの競争は苛烈になる。しかしこれらはいずれも(ファームやコンサルタントの能力の大小や視座の高低はさておき)PLにヒットするという点で、私の中では戦略コンサルティングの範疇である。
なお私は、コンサルタントになりたての頃はHR(組織・人事領域)を専門にコンサルティングをしていた。そして今は(大した専門性はないものの)リスク管理のプロジェクトにアサインされることが多い。どちらも戦略コンサルティングファームが手がけることの多い領域なのだが、私の中では、どちらも戦略コンサルティングではない。仮に成功しても、クライアントの損益を大きくそして直接的に改善する類のプロジェクトではないからだ。つまりBSには大きなインパクトを与えるが、PLには(あまり)ヒットしない。

本題

前置きが長くなった。本題に入るが、本書はDIの執行役員2人による、ビジネスプロデュースに関する本である。
本書の「はじめに」に書かれているように、DIは(私の中で)戦略コンサルティングの中でも最上位である「事業戦略」、その中でも「事業創造」に強みを持つコンサルティングファームである。彼らの言葉では、事業創造に関する一連のコンサルティングサービスを「ビジネスプロデュース」と呼ぶが、事業創造を専門もしくは強みとするコンサルティングファームは他にあまり例がなく、また(直接お会いしたことはないものの)会長の堀紘一を初めとしたDIという会社のアツい姿勢に昔から惹かれているため、今回も気になって買ってしまった。
本書も「はじめに」の初っ端から、良い意味でのショックを受けることになった。

「新規事業を立ち上げようとしても、どれもスケールが小さくて困ってます」
「いろいろ検討してみたが、次の事業の柱となるようなものが見つからなくて……」
 最近、大企業の幹部の方から、我々がたびたび受ける相談である。


 そこで逆に我々は問う。
「○○常務は、例えばどんな事業をおやりになりたいですか?」


 もしよければ、あなたもこの役員になったつもりで答えていただきたい。


 (略)読者の皆様が、どのような答え方をしたかは定かではないが、とりあえずイメージしたその事業について、次の質問に答えられるかをやってみてほしい。

  1. (あなたのイメージした新たな事業は)どんな社会的課題に立脚しているか?
  2. その社会的課題(の解決)に値する市場価値はどのくらいか?
  3. あなたの企業でできる範囲と、他のプレイヤーにお願いすべきところはそれぞれ何か?
  4. あなたの企業がそのポジションをとれる理由は何か?
  5. 他のプレイヤーがそれをやってくれる理由(他のプレイヤーのメリット)は何か?
  6. その事業には具体的にどんな法整備や規制の緩和が必要だろうか?

私は「クライアントの事業」と「私が所属するコンサルティングファーム・組織の新サービス」の2つで考えてみたのだが、正直、1でいきなり面食らった。まあ何とか答えてはみたものの、2については明確には答えられなかった。6についても全く想像がつかない。まとめると「社会的課題への着目」と「業界の枠組みを超えた発想」ということになるのだが、タイトルにある「3000億円」という規模の事業創造すなわち付加価値の創造を成し遂げるには、ここまで明確な答えを出せる必要があるのだろう。
詳しいノウハウは本書に譲るが、「フックと回収エンジンは(繋がっている限り)できるだけ離れている方が良い」など、なるほどと思わせる具体的な指摘もあり、非常に良い本だった。おすすめ。