川端幹人『タブーの正体! マスコミが「あのこと」に触れない理由』

タブーの正体!: マスコミが「あのこと」に触れない理由 (ちくま新書)

タブーの正体!: マスコミが「あのこと」に触れない理由 (ちくま新書)

伝説のスキャンダル雑誌『噂の眞相』の副編集長であった著者が、メディア・タブーが発生する3つの理由(暴力の恐怖、権力の恐怖、経済の恐怖)に切り込むという構成の本。

第1章「暴力の恐怖」は「皇室タブー」「宗教タブー」「同和タブー」について言及。
第2章「権力の恐怖」は「政治タブー」「検察タブー」「警察・財務省タブー」について言及。
第3章「経済の恐怖」は「ユダヤ・タブー」「原発タブー/電力会社タブー」「スポンサー・企業タブー」、さらに「電通タブー」や「芸能プロダクションタブー」に象徴される、芸能人のスキャンダルにまつわるタブーについて言及。
細かいひとつひとつの事例や主張には正直、ピンと来ないものや、違うんじゃないかと反論したくなるものもある。しかし各章で語られるメディア・タブーの具体的なエピソードは多岐に渡り、また概ね実名で書かれているため、全体としては非常に面白かった。

特に1章の「暴力の恐怖」で、怖いもの知らずと思われた『噂の眞相』の副編集長が、実は(編集長である岡留安則とは違い)右翼襲撃という暴力に屈していたのだと告白する下りは、かなり読み応えがある。
著者はあくまでも自虐的なトーンで語っているが、よほど修羅場をくぐってきた人間でなければ、著者を腰抜けだと批判することはできまい。何しろ皇室記事に抗議して事務所に押し掛けた2人組の右翼が激高し、著者はボコボコに殴られ、横腹に蹴りを入れられて失神しかけ、クリスタル製の灰皿どころかガラステーブルやテレビまで投げつけられ、挙げ句に包丁を持ち出され刺し殺される寸前だったのである。警察が駆けつけて何とか事なきを得たが、著者である副編集長は肋骨を骨折で全治3週間、そして血まみれで右翼に抵抗した編集長は額を6針・太股を3針縫う全治40日の怪我を負った。その後、著者は「『噂の眞相』が暴力に屈した」と思われる訳にはいかないからひた隠しにしたものの、皇室記事には微妙に自主規制を働かせるようになったそうだ。このあたりの迫力は、本書の白眉と言って良い。

もう一点、第3章の原発や電力会社、そしてスポンサー・企業に対するタブーについても非常に興味深く読んだ。こういうのを読むと、反政治権力・反権威スキャンダリズムを標榜する『噂の眞相』が一時期目指したような、広告費に頼らない(つまり雑誌の売上に頼るということなのだろう)独立系の牽制機能というのは重要だと思った。

余談

私は『噂の眞相』を読んだことがない。小林よしのりとのトラブルを見聞きして以来、トンデモな雑誌と思っていたからである。そういう面があったのも事実かもしれないが、本書を読んで、一面的な印象だけで「読まず嫌い」をしていたのは良くなかったなと反省した。一度ちゃんとリアルタイムで読んでみたかった。