高野秀行+清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』

世界の辺境とハードボイルド室町時代

世界の辺境とハードボイルド室町時代

高野秀行は『謎の独立国家ソマリランド』などで知られるノンフィクション作家で、清水克行は日本中世史の研究者で『喧嘩両成敗の誕生』などを書いたりテレビ番組の時代考証を担当したりしているそうだ。本書はその二人による対談集なのだが、対談の内容や意義を一言で説明するのは少々難しい。要は、ソマリランドを初めとした現代の辺境地域と日本の中世(室町時代)を比較して、思いも寄らなかった両者の共通項を探していくという流れなのだが、「両者を比較して何になるの?」という疑問は最後まで私の中から消えることはなかった。その意味では企画が甘いというか、企画倒れスレスレの本だと私は思う。自分たちで「寄書」と言ってしまう前に、誰に何を伝えたいのかというスタンスはもっと練り上げるべきであろう。

ただ、そういう疑問や懸念をひとまず横に置き、純粋に時間つぶしとして読むなら、私はけっこう面白いと思うし、アリだと思う。あくまでも対談集なので、どこまできちんとした考証がなされているかは疑問だが、「なるほど」「へー」と思うことが何度もあった。例えば、日本では大麻が流行らなかった理由とか、刀と槍はピストルと自動小銃の関係と同じとか、海外では古米の方が新米より高価な地域があるとか、村単位で年貢を取り立てていたことが日本人の精神構造に影響を与えて日本社会の同調圧力に繋がっているとか、独裁者は平和が好きである……と、こんな感じの知的好奇心をじわっと刺激するネタが山ほど詰め込まれているのである。

なお本書の書名は、知らない人には何のことやら全然わからないだろうが、これは村上春樹の長編小説『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』をもじったものである。『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』という小説は、時空も世界観も登場人物も文体も異なる「世界の終り」と「ハードボイルドワンダーランド」というふたつの物語が交互に語られるのだが、読み進めるにつれ、全く別個の物語であるはずの「世界の終り」と「ハードボイルドワンダーランド」がお互いに共鳴していく……という構造を持った作品である。つまり私が先ほど書いたように、(現代の)辺境地域と日本の室町時代が、全くの別物でありながらも多くの共通点を持っているということをメッセージとして伝えたいのだろう。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 全2巻 完結セット (新潮文庫)

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謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

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