- 作者: 中室牧子
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2015/06/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (16件) を見る
もっと簡単に(乱暴に)まとめると、学校の先生、教育評論家、子育て専門家、はたまた塾に通わせずに子供を東大に合格させました的なおばさんの一家言ではなく、正統な手続きを経て科学的に実施した実験や調査から得られた「データ」は、前述の自称・専門家にはわからないことを導き出すことがあり、そうした知見を紹介してくれているのが本書である。
例を挙げると、よく言われる以下のような教育論。これらは全て、学術的な大規模調査結果とは異なる示唆である。
- ご褒美で釣っては「いけない」
- ほめ育てはしたほうが「よい」
- ゲームをすると「暴力的になる」
調査や実験の結果からは、以下のような示唆が導出されている。
- ご褒美で釣っても「よい」
- ほめ育てはしては「いけない」
- ゲームをしても「暴力的にはならない」
他にも、子供の学力には親の遺伝が関係するとか、少人数学級には投資に見合うだけの効果が出ない等、ハッとする結果も色々と紹介されている。
この手の調査結果を見てもなお、ある種の信念で「ゲームをさせない」とか「ほめ育てをする」という結論を選ぶのは良いだろう。例えば、上記のご褒美で釣って勉強させることが「いけない」「よい」というのは、ご褒美で釣って勉強させることで成績が上がるという効果を得られたかどうかという点で、著者(というか教育経済学の知見)は「よい」と言っている。しかしご褒美の与え方にはポイントがあり、テストの点数のような「アウトプット」ではなく、毎日勉強をするとか、1日何個漢字を覚えるといった「インプット」でなければ、ご褒美の効果が得られないことも同時に明らかになっている。また、ご褒美で釣ることの良し悪しは、単に成績が上がることではなく、お金やモノといった外的報酬で動く人間になって欲しくないという親御さんの思いもあるだろう。繰り返すが、この手のデータや実験結果を見て、きちんと理解し、それでもなお一人ひとりが選び取る人生は別なものであって良いと思うのである。
ビジネスや経済についてはきちんとしたエビデンスを重視するのに、教育問題になった途端に誰もエビデンスを出せと言わなくなり、感覚論や経験論がまかり通る今の風潮は懐疑しなければならない。近年、シリコンバレーでも日本でも、教育にイノベーションを起こそうとするベンチャーやNPOが増えてきている。それは洋の東西を問わず、教育というものが非効率で矛盾に満ちた、改革の余地が多い領域であるということなのだ。
個人的には凄く面白い本で、今年読んだ本の中でもベスト5に入ると思う。オススメ。