真山仁・香住究『ダブルギアリング 連鎖破綻』

ダブルギアリング 連鎖破綻 (角川文庫)

ダブルギアリング 連鎖破綻 (角川文庫)

ハゲタカシリーズで知られる真山仁のデビュー作。真山仁は元々ゴーストライター的なことをやっていたらしいのだが、保険会社OBの持ち込み企画を書籍化するに当たって真山仁が執筆を担当したそうだ。

本書の内容は、ハゲタカシリーズ顔負けのゴリゴリの経済小説だ。中堅どころの生命保険会社を舞台に「破綻するまで」を描いているのだが、「なりふり構わず」というのが最もしっくり来る形容であろう。そもそも生命保険会社というのは銀行や証券会社と同じく金融庁管轄で、一般の事業法人のように自分たちだけで意思決定することなどできない。それに(金融庁管轄であるか否かに限らず)一定以上の大きさの潰れかけの企業というのは、死に絶えるまでに「ありとあらゆる延命措置」を行っているのではないかと考える。作中でも決算担当の登場人物が、もはや色々なことをやり過ぎて自分たちでもどれが本当に正しい数字なのか全然わからなくなっているのだが、それでも何とか、最後には何となく数字が出来上がってきて、その数字に一喜一憂しているだけなのだ……という悲痛な叫びが印象的であった。

さて、本書を読みながらわたしの頭の片隅をよぎったものが2つある。

ひとつは昨年読んだ『しんがり』である。『しんがり』は潰れた後の話であったが、本書は潰れるまでの話だ。フィクションとノンフィクションという違いはあれど、どちらも一言では書き尽くせない、血の通ったストーリーだ。
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もうひとつは東芝の一連の不正会計をめぐる報道である。彼らはマスコミと結託して「不適切会計」というオブラートに包んだ表現で逃げようとしていたが、内実は「不正会計」どころか「粉飾決算」ではないかと素人ながらに強く思うのだが、まあ言葉の定義は今回はどうでも良い。わたしが危惧したのは、東芝も、本書で出てきた「清和生命保険相互会社」と同じく、本業上も帳簿上も既にどうしようもなく痛み切っていて、例の「飛ばし」など氷山の一角に過ぎないほどの致命的な損失を抱え込んでいるのではないかということだ。会計というのは技術であり、損失をそう見えなくする技術というのは、わたしのような会計の素人でも幾つかは簡単に思いつく。そしてプロが本気でドレッシング(粉飾)しようとすれば、新日本監査法人のようなトップクラスの監査法人でも簡単に騙されてしまうのだ。(本当に7年間も騙されたのか、不正に加担していたのかは、微妙なところですがね。7年間って長いよ……? 7年間も見抜けないプロって一体何なのか?)