『FinTech革命』

FinTech革命(日経BPムック)

FinTech革命(日経BPムック)

2ヶ月ぐらい前に、FinTech本を色々とチラ見して、一番面白そうだと思って買ったのが本書。メガから地銀まで様々な取り組み事例が載っているのが良いね。

追記1

ゆとりずむのらくからちゃ氏に、みんな気になるテーマなのに2行はないだろうと言われ、それもそうかと軽く追記することに。まずわたしとしての基本的なスタンスは、FinTechって言葉がワーッと盛り上がっていること自体は「飯の種」になるかもしれないので好意的に捉えているし、何となくワクワクしてしまうのも事実だが、数年のうちに業界の絵図が切り替わるほどの革命が起こるかと問われると、「どうだろう」と懐疑的な立場である。むしろマスコミや我々のようなコンサルタントが必死こいてブームを底上げしている印象である。その証拠に、本書以外のFinTech関連本は軒並み、FinTech企業、NTTデータ、富士通総研、NRI、日立コンサルといったFinTechブームで儲けたい人々が、「これは革命だから乗り遅れじゃ駄目ですよ!」と大声で叫んでいるようにしか思えない。でも「革命」の具体的な内容になると皆途端に言葉遣いが曖昧になる。

具体的なFinTechのキーワードは、本書によれば「API」「人工知能」「ブロックチェーン」の3つである。でもこれも「革命」かと問われたら、ちょっと違うような気もする。例えば、ここで言う「API」の代表的なソリューションとして、みずほ銀行が開始した「LINEでかんたん残高照会」だが、別にネットバンキングにログインすれば十分という気もする。一方、「人工知能」は確かに革命に繋がるのだが、本当に実用に堪え得るソリューションとして浸透するのはいつだろうか。意外に早いと言う向きもあるが、少なくとも具体的に人工知能を用いたソリューションの実装に向けて動いているのはトップクラスの金融機関だけだし、そもそもIBMやGoogle、Amazonといったごく一部の企業においしいところは全部かっさらわれる気がする(もちろんIT業界の構造を考えると、様々な「おこぼれ」がこぼれて来るわけだけど)。最後の「ブロックチェーン」だが、これは最も革命的かつ汎用的な技術である。ただこれは(少なくともしばらくは)けっこう地味な革命である。ブロックチェーンとビットコイン(仮想通貨)を混同している方が多いが、ブロックチェーンというのは極論すれば(現状)データの改竄をほぼ不可能にしたデータベース技術のことである。この技術をどうソリューションに繋げて行くのかは今後まだまだ研究していかなければならない。

ということで、現状、最も我々の生活にインパクトを与えたFinTechソリューションは、Suica+オートチャージなのである。SuicaはICOCAやPASMOやPiTaPa等の多くの交通系電子マネーと連携しているから、わたしは関西に帰ったときも、何の違和感もなくSuicaを当てるだけでJRにも阪急にも乗れるし、コンビニで買い物もできる。それどころか今わたしは財布を落として一円も持っていないが、この3日間、とりあえず飯も食えるし電車やタクシーにも乗れるし自販機でお茶も買える。

結論としては、本書のタイトルの通り、FinTechは確かに革命を起こすかもしれない。しかしその革命は随分前から既に始まっているし、また魔法ではないということだ。ここ1年で起こってきたムーブメントではない。ゆめゆめキーワード先行で踊らされぬよう。

追記2

とはいえ金融業界あるいは金融業界相手に働いている方にとっては、日本の金融機関がFinTechをどう捉えているか気になる方も多いと思う。その意味で、本書は3メガバンク、10近くの地銀やネットバンク、10近くのFinTech企業の事例紹介&インタビューが載っていて、ざっくりと動向を掴むには非常に役立つ本である。