クロサワコウタロウ『珍夜特急 2nd season 4 メキシコ・中央アメリカ』

珍夜特急 2nd season 4―メキシコ・中央アメリカ―

珍夜特急 2nd season 4―メキシコ・中央アメリカ―

ユーラシア大陸(出発はインド)を日本から持ち込んだバイクで横断した作者が、今度はアメリカ大陸を南北に縦断する紀行シリーズ。

ユーラシア大陸横断時は、その時々で気の合う仲間と一緒に旅をするものの、基本的には一人旅である。しかし今回の旅(アメリカ大陸縦断)は、前回のユーラシア大陸横断で知り合って共に旅をした相棒・ノッチや、ドイツで知り合った知人・ラルフと一緒の旅になる。そしてノッチの新恋人・ベティーナとも一緒になる。

実はこれ(ベティーナの合流)が本シリーズにおける非常に大きなトピックというか構造転換だと思う。元々ノッチと著者は前回の旅をしていた盟友であり、ラルフは「よくわからないドイツ人」という立ち位置だったので、ノッチ&著者vsラルフという2対1の構図ができていた。しかしベティーナが来ると話は変わってくる。部屋割りだったり、二手に分かれて行動するときだったりは、当然ノッチ&ベティーナが組み、それ以外のラルフ&著者が組むことになる。そんな中で、ラルフの「変わり者」というだけでない、シャイだが自分の意見よりも皆の合意を重視した日本人的な思考回路を著者は知る。また「ただ走りたいんだ」というラルフのライダーとしてのシンプルな欲求に共感して、心情的にもノッチ&ベティーナvsラルフ&コータローという組み合わせが出来ていくのである。実際的にラルフとコータローが心の友になっていくのはもう少し先だが、ベティーナの合流により、その不可逆の流れができたと言える。

まあ改めて思うのは、ライダーやバックパッカーのような自由人の場合、4人で旅を続けていくのはけっこう難しいだろうねということだ。あまりにも気が合い過ぎると(快適ではあるものの)新しい発見や自己変革というものがほとんど起こらない。一方、考え方が異なると、相手に合わせると自分のやりたい旅ができなくなってしまう。前パラグラフで「ラルフのライダーとしてのシンプルな欲求に共感して」と書いたが、元々はコータローがライダーとして共感していたのは(ラルフではなく)ノッチである。ラルフはライディング技術もあまりなく、整備もイマイチで、心配性だからか使えそうもない備品を山ほど持ち歩いている。しかしノッチは新恋人のベティーナに合わせるために「ユルい奴」になってしまっており、だから技術的にあまり学ぶことがないものの、よりシンプルに「ハードに走りたい」と思っているラルフに共感するようになるのである。

なるほど、人間関係というのはバランスなんだな。そしてお互いの立場や成長を踏まえて、揺れ動くものなのだ。